はじめまして。




「桜井翔君、はじめまして」

ニコニコと笑いながら、自分より少しだけ目線の低い人物が話しかけてきた。
言葉の後に続けて握手を求められて手を伸ばされて、思わず握ってしまってから我に返る。

「…さとっさん?誰と誰がはじめまして?」

嵐というグループを組んでからもう5年も経つのに、そのメンバーからまさかはじめまして、などという言葉を聞くとは思わなかった。
大体もう出会って何年目なのだろうと思う。
いつも不思議な行動をとっているこの人のことだから、きっとたいした理由はないのだろうけれど。

「俺と翔くんがはじめまして」

とりあえず聞き間違いではないらしい。
はじめまして、という言葉にかかるのは自分と彼のようだ。

「全然はじめましてじゃないとおもうんだけど?」
「はじめまして、大野智です」
「いや、だからね?さとっさん?」
「ええと、今年で24歳になります」
「もしもーし?」

すらすらと何故か自分のプロフィールを述べて行く彼。
身長、体重、靴のサイズ、好きなもの、嫌いなもの、全て聞き覚えのある情報が耳に入ってくる。
そんな彼の行動が何がなんだかわからずに、頭の中いっぱいにクエッションマークを並べていた。
混乱している自分にはお構いなしに、思いつく限りの情報を与え続けてくれている彼。
もう思いつかないよ…と頭を抱えるまでその自己紹介は続けられた。
そこまでやって満足したのか、目いっぱいの笑顔をむけてくる。

「…で?結局なんだったの?」
「はじめましてごっこ」

尋ねると、すんなりと返って来る答え。
意味がわからなくて、ひどく困った気分になる。

「親しき仲にも礼儀ありっていうの?」
「いやいや」
「んーていうかね、俺たち、こういうのやったことなかったじゃん?」
「え?」
「初対面の時ってさ、全然記憶ないけど多分、名前も名乗りあったりもしてなかったと思うんだよね」
「あーまぁ、そうだったかもね」
「だからさ、こういうのも必要かなって。大体インタビュー記事とか読んで知ってる情報ばっかりだけど、
自分の口から伝えたことってなかったから」

そう言えば、そうだ。
出会ってから一度だって、自己紹介なんて真似をお互いに向かってしたことなんかない。
雑誌やテレビのインタビューで答えて、それを見ることや聞くことによってまるでわかってるようになっていたけれど。
確かに、本人から聞いた情報はほとんどと言って良いほどない。

「だからね、翔くんも聞かせてよ、自己紹介」

まるでインタビュアーのように、架空のマイクを手のひらを丸めて作って前に差し出してくる。
そのかわいい行動に仕方がないな、と苦笑いをひとつして、そのマイクに向かって声を出した。

「はじめまして、櫻井翔です。年齢は22歳で、身長は…」

さきほどの彼と同じようにすらすらと思いつく限りの、自分の情報を述べる。
それを楽しそうに聞いて、相槌を打っている彼。
時折、知らないこともあったのか、本気で感心している姿も見える。
そんな微笑ましい反応に気をよくして、最後の情報を言うために彼の肩を引き寄せ。
抱きしめるみたいな格好で、耳元に囁いた。

「好きなものは、大野智です」

ちゅっと音を立てて、耳元に唇を寄せると、真っ赤な顔をした彼が頭をはたいてきた。