恋する愚か者
「それ、珍しいね」
二宮に指さされて、その視線の先をたどって、自分の手を見る。
それと称されたものは、どうやらこの手に収まっている指輪のようだ。
ああ、と呟いて、それから自分でもそれを見つめる。
あまり装飾品をしない自分が久しぶりにしたそれは、自分で買ったものではなく、人から貰った物だった。
左手の中指に納まっているそれは、派手でもなければ地味でもなく。
選び手が自分のことを思い、大切に選んでくれた事がわかる代物で。
他人の目から見てもそう思ったのか、二宮も、感心したように言った。
「よく似合ってるじゃないですか」
なんか、大野さんっぽいよ、それ。
そう言って、左手をとられてまじまじと見つめられる。
なんだか気恥ずかしくなって、やめろよと、手を軽く振り払った。
二宮はその行動にさして気にした風もなく、言葉だけを続けた。
「どうしたんです?これ。買ったんですか?」
大野はそう言われて、眉毛を困った風に下げた。
出来れば面倒だから、あまり説明をしたくなくて、聞かれたことに答えを出すのをためらう。
二宮がそんな大野の様子に訝しげに、首をかしげた。
「…何でそんな困った顔してんの?」
「困ってるから」
それだけ即答してさらに眉を下げると、二宮はおかしそうに口元を押さえた。
「ああ、貰ったんだ?」
「…なんで?」
「だって、あなた困ってるから」
そう言ってさらにおかしそうに口元を押さえて、笑いを堪えるように笑う。
なんとなくむっとする。
「うるせぇよ、笑ってんじゃねぇよ」
「あーはいはい、で、それくれた人は今日はまだ来てないの?」
「しらね」
楽屋に着いたときには、自分ひとりで荷物も何もなかったから、来ていないのだろうけれど。
ぶっきらぼうにそう答えると、二宮は今度はにやにやと口の端をあげた。
「愛されてますね、リーダー」
すべてを悟りましたという表情で、こちらを見てくる二宮に軽く拳を当てる。
「ちょっ、照れるならもうちょっとまともな照れ方にしてください」
「照れてねぇよっ」
多分、二宮が思っていることはすべて当たっていて。
この指にはまっている指輪が、買ったものではなく誰かに貰ったもので、それが誰から貰ったかまできっと、全部。
「でもやっぱりちゃんとわかってるんですね」
「なにが?」
「あなたに似合うもの」
指に綺麗に収まったそれを再び二宮は指差した。
大野はそれを見ると、もらった時のことを思い出して、なんとなくしかめっ面になる。
二宮はそんな大野の反応に怪訝そうに、たずねた。
「なんでそんな顔なの?」
「…おもたいなって」
重たい?二宮が聞き返して、大野は指から指輪を外す。
「これね、もらったの」
「うん?わかってますけど?」
「でもね、僕、こういうのすきじゃない」
「こういうの?」
それは指輪のこと?それとも指輪を渡す行為のこと?
二宮は続けざまにそう言う。
大野はまたさらに眉毛を下げて。
「りょうほう」
と答えた。
大野にとって、指輪も、その指輪を渡される行為も、面倒くさいものであった。
いちいちつけるのが面倒なそれは、どこかに忘れたり出来ないし、常に気遣いを持って扱わなければならない。
せっかく貰ったのだからと思うと、がんじがらめにそれが気になって仕方なくなるのだ。
だから大野にとって指輪と言うものはひどく不必要なものだった。
そして指輪を渡されるという行為も、また大野にとって不必要だった。
その指輪は、何か意味を持って渡されたわけではない、持ってきた本人もそう言っていた。
だから別に左手にしてくれだとか、薬指にしてくれだとかそんなことは1つも言われなかった。
だがしかし、付き合っているものの間で渡されるそれに、意味がないわけなどないのだ。
彼が、自分のためにそれを選んでくれたことは本当にありがたいと思うし、身につけられることも嬉しいと思う。
ただ、物を貰うと、それに縛られている気がして、息がつまりそうになるのだ。
怖いというか、重いというか。
「…リーダー、翔くんには、それ、言うなよ」
少しだけ苦笑した二宮が、大野に向かって呟く。
大野はそれに小さな子供が母親に反抗するみたいに言い返した。
「わかってるよ」
言うわけがない、言えるわけがない。
彼の事が嫌いなわけじゃない、むしろ愛しているといっても過言ではないのに。
ただ、何かがすれ違っているのだと、大野は心の中で溜息を吐いた。
愚かなのはどっちなんだろう?というお話。びみょー。