記憶喪失



「だれ?その人」



階段から落ちた、と聞いて慌てて病院へと向かった。
ドアを開けた途端、櫻井の姿を見てほっとしたような表情をして微笑んだのを見て、櫻井もほっとする。
見た感じ元気そうに見えた大野は、自分を見てはっきりと翔くんと呟いてくれた。
それにさらにほっとして、だけどそれもつかの間。
次に入ってきたメンバーの一人を見て、大野は明らかに困惑した顔を浮かべた。

「だれ?その人」

その場にいた誰もが固まった。

「…だ、誰って、松本だよ?松本潤」

呆然とみな、している中、なんとかいち早く立ち直った櫻井が大野に食いかかるようにそういうと。
大野は困ったような眉毛をさらに下げて、首を振った。

「…わかんない」

知らない、そんな人、大野ははっきりとそう言った。
そんな、ばかな…と櫻井は思う。
ぎこちない動きのまま、松本を振り返ると、松本は泣き出しそうな顔で大野を見ていた。
その表情を見たのであろう大野が、すまなさそうな声で、こういった。

「…ごめん。その人、翔くんの友達?」
「お、覚えてないの?メンバー…だよ?…嵐の」
「…え、だって、嵐は、相葉ちゃんとニノと翔くんと俺と…あれ?」

大野は混乱したように、何度も頭の中で人数を数えている。
確かに5人いるはずなのに、どうしても最後の一人が思い出せないのだと、言う。
その最後の一人が松本であると、それがわからない。

ずっと黙っていた松本が口を開く。

「…大野くん、ほんとに、俺のことわかんねぇの…?」

大野は申し訳なさそうに、松本の顔をもう一度見て、それからこくりとうなずいた。
ごめんなさい、と一言付け足して。


櫻井は、自分のせいだと思った。
大野は、松本が好きだった。
大野と付き合っていたのは自分だったけれど、松本が好きなのだと知っていた。
そして松本も大野が好きなのだと。
櫻井がさよならを言えば、ふたりは通じ合うことが出来る、そうわかっていた。
だけれど手放すことなど到底出来ず、言わなければこのまま大野を自分のもののままにしておけるとそう思っていた。
そしてそれだけでは飽き足らず、不安に駆られた櫻井は願ってはいけないことを願った。


松本のことなんか、忘れてしまえばいいのに。


まさか、自分の願いが天に届くなんて、思ってもみなかったのだ。





WEB拍手のお礼小説でした。
SOJの記憶喪失。毎回ちょっと頭が痛くなる話を入れるのが目標です。