神風戦隊アラシ 第1話
「ねえ、翔くんさぁ、正義の味方になってみない?」
大学の講義が終った昼休み、いつものように中庭で食事を取っていたら。
まるでサークルにでも勧誘されるように、友人の相葉に、唐突に言われた言葉。
この友人はいつも少しずれた発言をするけれど、今日のは格別変だなとのんきに思って。
とりあえず聞き返した。
「…お前、何言ってんの?」
「だーかーらー、正義の味方!悪と戦う気ねぇ?って言ってんの」
「…いや、意味わかんねーし。悪ってなんだよ?勝手に戦えよ。俺そんなひまねぇよ。じゃあな」
存外真剣な口調の相葉に、櫻井は、こいつは駄目だと相手にするまいとため息をついて片手をあげた。
体を返して、立ち去ろうとすると相葉が腕を引っ張ってそれを止める。
「ちょっ、待ってって!いいじゃん、正義の味方。翔くんってブルーっぽいじゃん?」
「どこがだよ!?」
「ほら、エリートで頭良いんだけど、打たれ弱いとことか」
「…悪かったな!ぜってぇやんねぇよ!あーもーお前の冗談に付き合ってる暇ないんだってば」
レポート書かなきゃだし、バイト行かなきゃだし。
ぶつぶつと呟きながら、今度こそ、と歩き出したその瞬間。
「時給、今のバイトの3倍は出るよ?」
その声に、ぴたり、と足を止める。
振り返ると、相葉がにんまりと音を立てそうな笑顔で櫻井を見ていた。
「…やっぱ、俺、帰るわ」
さようなら、と目の前に立つ恥ずかしい建物から背を向ける。
相葉はまぁまぁと櫻井をなだめた。
金色のまるで目立ちすぎる屋根に、真っ赤な門。
よくも大学の近くに今までこんなものが建っていたことに気付かなかったな、と思うほど悪目立ちしている。
行き道で、今から行くところは悪と戦うための秘密結社だと言っていたはずだが。
これでは、どこをどう秘密にしているのかまったくわからない。
「目立ちすぎだろ」
「そうかなぁ?すごい控えめだと思うけど」
「うそつけよ!」
時給のよさにつられて思わず、ここまできてしまったことを櫻井が後悔していると、相葉はそんな櫻井を引っ張って赤い門をくぐる。
くぐった先にまためまいがしそうなピンクの扉があって、泣きたくなった。
もう少しでいいから、せめて色合いを考えるとかしようぜ?と、どうでもいいことを頭で突っ込む。
「こんにちはー!新しいブルーっぽいひとつれてきたよー!」
ピンクの扉を開けると、その場にいた人の視線が一斉に櫻井に突き刺さった。
「ほらほら!自己紹介!!」
そう言って、櫻井は相葉に前に押し出されて、視線の真ん中へ立たされる。
「櫻井、翔です…」
櫻井は視線を巡らしながら、どうもと頭を下げる。
その場にいる人数は相葉を入れて4人。
全員座っていたイスから立ち上がると、櫻井の前へと歩み寄ってきた。
「俺、グリーンの二宮和也。よろしく」
「あ、よろしく」
二宮と言う人物に手を差し出されて、握る。
少年っぽい面影を残してはいるが、櫻井と同年代くらいだろうか?
「イエローの松本潤。ブルーが急に脱退しちゃって、困ってたんだよね。助かったよ」
「あ、どうも」
松本という名の人物も、二宮同様、手を差し出してくる。
櫻井もならって、手を握った。
そうして、近づいてくる最後の一人に目を向ける。
眠そうに目をこすりながら、こちらに向かって来る人物は櫻井に焦点を合わせると口を開いた。
「…ピンクの大野智です。よろしく」
「え?ピ、ピンク?」
確かに女の子っぽい顔をしているような気がするが、大野はどう見ても男だ。
男なのにピンクって…と櫻井は思わず凝視してしまう。
大野は少しむっとして、そして言った。
「じゃんけんで負けたの!」
「あ、そうですか」
機嫌を損ねてしまったのか、最後の1人、大野は握手を求めてはこなかった。
失敗したな、と櫻井は思いながらも、ことを静かに見守っていた相葉に目線を向ける。
すると相葉は何故か、手を差し出してきた。
「俺、相葉雅紀!」
「いや、知ってるし」
「ちなみにレッドね!レッド!んで今日からこの5人で、神風戦隊アラシね!」
…アラシ?
無理矢理相葉に手を握られながらその微妙な名前を聞いて、櫻井は。
時給安くても前のバイトのままでいればよかった…とさらに深く後悔した。