神風戦隊アラシ 第2話




「あ」
「あ」

大学から帰宅して、マンションの部屋の鍵をドアの前で探していたら。
斜め向かいのドアが開いて、見覚えのある顔が出てきた。

「…櫻井くん、だっけ?」
「ええと、大野、くん?」
「ここに住んでたんだ?」
「ああ、うん、そっちこそ…」

なんとなく気まずくて、ふたりとも自分の家の前に立ち尽くした。
何か話さなければ、一生このままなんじゃないかと思い、櫻井は口を開く。

「えー…あ、どっかでかけるんじゃなかったの?」
「いや、しょうゆ切れてたから、コンビニ行こうかと」
「醤油?あ、うちあるけど…」
「あ、え?うん?」

また、会話が止まった。






「どうぞ」
「あ、いただきます」

あの後、なんだかんだで醤油を貸す羽目になって、お礼にと夕飯をご馳走になることになった。
踏み入れた自分と同じ間取りの家は、適度に汚れ、適度に片付いていて。
人が住んでいると、感じさせる家だった。
出された料理を、丁寧に手を合わせて口に運ぼうとすると、じっと見つめる視線を感じて。
なんとなく食べにくいなと思いながら、一口食べると、味が口に広がった。

「あ、おいしい」

お世辞でもなんでもなく、素直にそう口に出すと、花がほころぶような笑顔を大野はした。
なんとなくそれにドキリとして、手の動きが一瞬止まる。

「本当に、おいしい?」
「あ…うん。本当。マジでうまい。大野くん、料理上手なんだね」
「そう?そんなことないよ?」
「そんなことあるって。俺、料理しねぇからマジ感動」
「ええ、そうー?」
「すっげうまい。今まで食べた中で一番かも」

そりゃ言いすぎだろ、と大野はまた笑って、また櫻井の胸が跳ねる。
なんだよ、故障かよ、などと櫻井は胸を押さえた。
大野は料理を褒められたのが嬉しかったのか、上機嫌で食事を取っている。
櫻井は、落ち着け、落ち着けと頭で2回呟いて、そしてなるべく普通に会話を始めた。

「ていうか、アラシだっけ?あの正義の味方」
「そうそう、神風戦隊ね」
「あれってさ、何のためにあんの?」
「なんのって、悪と戦うためでしょ?」
「…悪ってなに?」
「カツンっていってね、6人ぐみなの」

まるで頬袋でもあるかのように、もごもごと口にものを詰めながら、話す大野。
櫻井はハムスターみたいだなぁとぼんやり見つめながら、話を続けた。

「…いや、ていうか、カツンって何?」
「悪の組織」
「…悪いことって、なにしてんの?」
「さぁ?」

さぁって、わからずに戦ってんのかよ!
思わず櫻井はそう突っ込んだら、大野は口を尖らせて反論してきた。

「だって、時給が良いんだもん」

…そうですね。
櫻井は、自分が戦隊に入ろうと思ったきっかけとまったく同じで、妙に納得してしまう。

「てかさ、櫻井くんってさ」
「あ、翔で良いよ」
「じゃあ、翔くんってさ、学生さん?」
「あ、うん。大野くんは?」
「僕は、頭悪いから大学は行ってないよ。絵描きながら、バイト」
「…絵?画家?」
「…のたまご?」

ふぅんと呟いて、それからあたりを見渡す。
確かに、それっぽい物がいくつか目に留まって、また視線を戻した。

「大野くんってさ、年いくつなの?」

なんとなく気になって、尋ねると自分よりも1つ上の年齢を上げられて、思わずえ!と驚く。

「年上…だったんだ」

てっきり同い年か、はたまた年下かと思っていた。

「…どうせ見えないよ」

また拗ねたように口を尖らせた姿を見て櫻井は、さらにその想いを深まらせた。
どう見たって、年上には見えない。
そして、この人がピンクでよかったなとなんとなく思う。
むしろこの人のピンクのコスチュームを見てみたいと櫻井は想いを馳せた。

ちょっとだけ、神風戦隊アラシが楽しくなった瞬間だった。