神風戦隊アラシ 第6話
気が付けば時は経ち、櫻井は随分とアラシにも慣れてきた。
KAT-TUNが現れては、街を襲い、それを倒しに行く。
そのパターンを何度か繰り返す内に、恥ずかしいコスチュームもポーズもなんなくできるようになってしまった。
それに数回目に気がついて、少しだけ自己嫌悪に陥るも、横でブルーかっこいいね!と呟くピンクの姿を見ればそんなものは吹き飛んでしまう。
いまや、櫻井にとってピンクこと大野智は、大事な存在になっていた。
ちゃっちゃらちゃららら〜ちゃんちゃん。
またいつもの笑点のテーマがなって、櫻井は鞄からブルーの携帯を出す。
毎回恥ずかしいので、いつも着メロを勝手に変えているというのに、いつの間にか気付けば元のこの音楽に戻っている。
一体誰が?と疑問に思いつつも、何度変えても元に戻るので、諦めて笑点で放置しているのだが。
「もしもしこちらブルー櫻井」
「もしもし?俺、イエロー松本」
「ん?ああ、お前か、珍しいな。いつも相葉なのに」
「あー相葉ちゃんね、風邪でダウン」
「…それこそ珍しいなぁ」
「ほら、馬鹿だから、夏風邪」
さりげにひどいことを言っているな、と思いつつも、そこは流す。
「で、出動なの?」
「うん、けど、ちょっと面倒なことになっちゃって」
「面倒?」
「とりあえず今日、ばらばらに出動ってことで」
「は?」
「詳しい説明はあとでするから、とりあえず翔くん、着替えて出動してよ」
早口に最後に、KAT-TUNが出現した場所を言われて、勝手に電話を切られた。
櫻井はブルーの戦闘服に身を包み、松本に言われた場所へとパタパタと走った。
この格好で街中を歩くのはやはりひとりでは恥ずかしい。
皆で歩いている方がより目立つけれど、ひとりで見られるよりは数倍もましだ。
じろじろと白い目を向けられながら、辿り着いた場所では、KAT-TUNが6人全員で暴れているのが見えた。
途端。
また軽快な笑点のテーマが流れる。
「もしもし?」
「もしもしブルー?こちら、イエロー。ちなみにグリーンもピンクもここにいます」
「あーこちらブルー。ついたけど、お前らまだなのかよ?すげぇ勢いで暴れてんだけど」
「あー…実はさ、すっげ、言い難いんだけど…」
イエローこと、松本が、電話口で言葉の通り言い難そうに、詰まらせた。
櫻井は、嫌な予感を過ぎらせつつも、先を即す。
松本は電話口で、ごめん、と呟いた。
「あのさ、俺とニノ…グリーン、期末テスト前なんだよね?だから勉強中で、いけねぇんだわ」
…お前ら高校生だったのかよ。
今まで知ろうとあまり思わなかったので、知らなかったが、まだ高校生だったとは驚きだ。
「…まぁ、じゃあしょうがねぇな。きちんと勉強してこい」
「え?まじで?悪いね」
感謝するよ、と言いながら松本は笑った。
学生の本分は勉強だ。
櫻井はそれを疎かにしてまで、こんなことをする必要はないと思う。
「…で、まぁ、お前らは良いけど、あい…レッドは?」
「さっき言ったじゃん。夏風邪。結構ひどいらしくて家でダウン」
「ああ、そうか……ってちょっとまて、じゃあ今日俺とピンクだけ!?」
「い、いや…それが…」
松本がまた口を篭らせた。
櫻井がそれに首をかしげていると、電話口の向こうで、会話が行われているのが聞こえる。
なにやら相談の末、電話口から今度は松本ではない別の声が聞こえてきた。
「もしもししょうくん?」
大野の声だった。
「さとっ…じゃねぇ、ピンク?」
櫻井の声が、心なしかはずむ。
「あのね、あのね、ごめんね?」
だけれど大野の声は大変申し訳なさそうに聞こえて、弾んだ声と裏腹に先ほどの嫌な予感が頭をかすめた。
あまりこの先を聞きたくないような、そんな気がしたが、とりあえず返事を返す。
「な、なにが?」
「あのね、しょうくん、ぼくね、ねむい」
「へ?」
「だから、悪いけど、ひとりでおねがいね。ばいばい」
「え、ちょっ!さとっ…!」
プツッ、ツーツーツー。
虚しく響く、その音に櫻井は呆然とその場に固まった。
眠いから、なんだよ、眠いからって、こないのかよ…!
櫻井は、唇をかみ締めて、まるで悔しがるように下を向いた。
しかし、大野にはどうやら自分は甘いらしく、怒りつつもそれを大野へと向ける事が出来ない。
その思考に自分で、尚更恨めしさが増した。
そうこうしている内に目の前では、盛大にKAT-TUNが暴れていた。
しかもいつもは1人か2人でしか出てこないくせに、何故か今日に限って6人全員で来ているという事態にも直面している。
1対6なんて、ありえない。
櫻井は、一体どうしようかとため息をついた。
…ていうか、俺も帰れば良いんじゃん。
ふっとその考えに辿り着いて、櫻井はくるりと目の前で暴れるKAT-TUNから背を向ける。
そうだよ、帰れば良いんだよ。
そうそう、何もなかったんだ。
今日は良い天気だし、久し振りにドライブにでも。
櫻井は、何事もなかったかのように帰り道を歩もうとした。
が。
「あ!神風戦隊だ!!!」
KAT-TUNの1人がこちらを指差した。
櫻井は無意識にげっと声を出す。
「いえ、人違いです。俺は神風戦隊なんかじゃありません」
櫻井は面倒くささのあまり、一度だけ振り向いて、ブルーのヘルメットに覆われた顔の前で手を振った。
「ああ、そうですかそれはすみま…ってんなわけねぇだろ!」
「ちっ、やっぱり駄目か」
櫻井はため息をついて、立ち止まる。
ああ、どうして俺だけこんな目に。
「さー今日こそ決着をつけてやるぞ」
「いやー出来たら今日は俺1人なんで、やめてほしいんですけど」
「…他の4人はどうしたんだよ?」
「夏風邪と、試験勉強と、睡眠不足」
「はぁ!?ふざけんな!」
KAT-TUNの額にKと書いた奴が、怒りをあらわに手に持った野球ボールをこちらへと投げつけてきた。
それは大きく、そして綺麗に円を書いて、櫻井の頭に落ちてくる。
あ、ぶつかる、とそう思った時にはよけることもままならない位置で。
ちかちかと頭に星が振ってくる中、櫻井は。
俺、野球よりサッカーのが好きなんだよなぁ…とどうでも良いことを考えた。