Lip Magic




向って来た白い腕に、抱きすくめられて、とりあえず大野は背中に腕を回した。
室内で静かな音を立てて回るクーラーが、少し強めなのか、その暖かさが身に染みる。
今日は2人部屋だからと、泊りがけのロケ先で都合よく櫻井と同じ部屋になった時、小さく顔を見合わせてお互い微笑みあった。
仕事中ではあるけれど、2人きりになれるのはやはりうれしくて。
回した腕にもう少しだけ力を込めた。

「智さん」

背中を撫でるように櫻井の腕がつたって、少しだけくすぐったさに身をよじる。

「…感じちゃった?」

その行動に、にやりと口の端をあげて笑う櫻井に、大野はふくれっ面をして背中を抓った。

「い、いた!いたいよ!智さん」
「…馬鹿なこと言うからだ」

いい加減、離せよと胸を押すと、意外とあっさりと櫻井は身体を離した。
それに大野は少しだけ寂しさを覚えて、だけれど決してそれを表に出すことはしない。
そんな表情を見せてしまったらきっと、明日も仕事があるというのに馬鹿みたいに抱き合わなきゃならなくなるのだ。
櫻井と言う男は、大野のそういう表情に調子に乗る事が多々ある。
最終的に流されてしまう大野も悪いのだとは思うけれど、もう無理だと言ってもやめない櫻井のほうがより悪いに決まっている。

大野は、気付かれないように俯き加減で櫻井の元を離れて、部屋の奥へと進んだ。
入り口付近で扉を閉めた途端、抱きすくめられて、お互い荷物も下ろしていない。
抱えた荷物を脇に置くと、身体を休めるように、ベッドに腰をおろした。
ギシリとベッドのスプリングが揺れる。
櫻井も後に続いて部屋の奥へ来ては、倣うようにして向かい側のベッドに座って、そして同じ音をさせた。

「2人部屋でよかったね」

ひどく、嬉しそうな顔でそう言った櫻井は、また大野のほうへと手を伸ばしてくる。
その手は大野の手を掴み、握りしめられて、少し離れた距離をまるで橋を渡すみたいに、繋げた。
大野はそれに返事をせず、ただ、小さく頷く。
それだけで櫻井はまた嬉しそうな顔をして、さらに強く手を握った。

「ね、智さん?キスして良い?」

そう聞きながらも答えは待たれることもなく、櫻井は身体を半分だけベッドから持ち上げて、素早く唇をかすめとる。
離された唇で大野は、了承をとるなら返答を待てよと悪態をつつくも、櫻井は悪びれた様子もなく笑うだけだ。

「おまえさいあく」

大野は怒った顔を作って、そう言って、未だ握られたままの手を振り解こうとする。
けれど、その手は離されることはなく、力強く握られたままだ。

「悪いけど、離しません」
「離せよ」
「無理」
「むりじゃねぇよ」
「…我侭言わないでよ?」

どっちがだよ!!とつっこもうと口を開こうとした途端、また唇をふさがれる。
今度は塞がれただけではなくて、こじ開けられて舌を侵入させてきて。
大野はその感覚にブルリと身体を震え上がらせた。
そうして、握られたままの手では身体を支える事が出来ず、倒れるようにして上半身をベッドに沈みこませる。

「ちょっ…」
「ね、キスしよう?」

押し倒す形になって、そのまま唇を外すとそれを耳元へよせて、囁いた。
してるじゃないか、と、大野は思う。
櫻井の息だけを耳元に当てられて、また身体が揺れるような感覚に悩まされた。

「ねぇ、キス…」

また耳元すれすれで囁かれる言葉。
わざとされるその行為に、何度も何度も小さな喘ぎを押し殺して、身を捩る。
捩るたびに、掠れた笑い声のような音が耳に当たって、またさらに体が歪んだ。

「もっ…しょぅ…くっ…!」

くすぐったいというよりも、腰のあたりからむずむずとする様なその感覚に、このままでは流されてしまうと必死で身体を押し返す。
明日も朝早くから仕事だと言うのに、さすがに無理は出来ない。
もがくようにして、唯一あいている、足を蹴りあげた。

「…ってぇ!」

足は櫻井の脛に当たり、かすかな痛みをもたらした。
大野は今だとばかりに押しのけて、立ち上がっって、そして櫻井の頭をはたいた。

「ってぇ!!」

櫻井はまた同じ声を上げて、ベッドに突っ伏し、そして恨めしそうに大野の顔を見上げた。

「ざまぁみろ」

大野はあっかんべをするような表情で、櫻井を見下ろす。

「…ひでぇ」
「ひどいのはどっち?」
「ちょっとしたスキンシップだったんだけど?」

どこがだよ!とまた頭をはたこうとして、大野は頭に手を伸ばすと、それを掴まれる。

「…そう何度も叩かれてやんないよ」

そうして引っ張られて、また大野はベッドへと沈み込まされた。
大野は櫻井を睨みつけるように見上げると、櫻井は余裕の笑みを浮かべる。
大野はため息をついた。

「…翔くんなんかきらいだ」
「そんなこといわないで?しないから、キスだけしよ?」

…キスだけじゃすまなくなるくせに。
大野は、またそう突っ込む前に振ってきたキスを受けながらそう思った。