わんわん




「じゃんけんしようよ、翔くん」

そう言われて、すぐさまじゃーんけんぽん!とお決まりの掛け声をかけられて、思わず反射的に拳を突き出した。
正面にいる智さんの手は、開かれている。

にやぁと音が出そうなほど、口の端をあげた智さんは、手ばなしで喜んだ。






「よしよし、しょう〜ごはんあげようねぇ」
「……わん」

なんでこんなことになったんだろう。
智さんに頭を撫でられながら、膝の上に頭を乗っけて、考える。
普通なら、この状況は限りなくおいしい状況のはずなのだ。
楽屋の片隅で、仕事までの空き時間、甘い甘い恋人同士の、昼下がりの戯れ。
…それだけならば、確実に、よい状況のはずだ。
ただ、この、状況設定を除けば。

「ほぅら、しょう〜、お手」
「…わん」

言われるがままに、手を差し出して、智さんのに重ね合わせる。
智さんはそれを見て、えらいねぇ!えらいねぇ!と馬鹿のように褒めると頭をぐりぐりと撫でてきた。
楽屋の逆端では、残りのメンバーが冷たいような気遣うような目でこちらを見ている。
わかってる、わかってるから、その憐れむような目はやめてくれ。
泣きたいような気持ちで、そちらから目線を逸らすと、今度はおかわりと言っている智さんに逆の手を差し出す。

「えらいえらい!よくできたねぇ、じゃあ、ごはんあげるね」

智さんは、楽しそうに袋からお菓子を取り出して、俺の口にするりとつっこむ。
一体ぜんたい、なにがどうしたというのだろうか。

楽屋に入ってすぐ、行われたじゃんけん。
これがまずだめだった。
どうして俺は、あの時拳を突き出してしまったのか、どうしてはさみを出さなかったのか。
だけれど、ガッツポーズを取った智さんからはまだこんなことになるなんて1つも思っても見なかった。
負けた人は言うこと聞いてね?
そんなことは先に言ってよ、と思いながらも上目で頼まれると、思わず頷いてしまう。
そうして言われた、恐ろしい言葉。

「いぬになって」

気が付けば、ワンワンと叫ぶはめになっていた俺。
いったい何をやっているのだろうと思いながらも、智さんの顔が嬉しそうなのでまぁ良いかと思ってしまう。
ああ、俺って馬鹿じゃね?

「しょうーしょうー」

嬉しそうに、普段使わない呼び捨てで名前を呼んでくれるのには少しドキドキするけれど。
扱いが犬じゃなぁと、ため息をついた。


結局智さんのその気まぐれな行動は、スタッフに呼ばれるまで続いた。





なんてあほな話。意味がない。