たったひとつの。



たったひとつ。
手に入れられなくてもいいから。

せめて。

触れてみたいと。




たった2人の楽屋、とても居心地がいいのに、息が苦しくなる時がある。
仕事の時よりも幾分か饒舌に話す大野と一緒にいると、時折そういう状態になる。
それがどういうことか気付いたのは、もうずっと前で。
持ってはいけない気持ちを持ってしまったことに、後ろめたさを感じて。
だけれど到底消すことなんて出来なかったから、ただひたすら胸の奥に隠す選択をした。
そして、その後隠し通せていることを、不器用な自分にしてはうまくやれていると、褒めてやりたいと思う。

だけど。

時折、押さえ切れないほどどうしようもなく胸がうずく時がある。
こんな風に2人っきりだと、それは殊更で。
目の前で楽しげに笑う大野を見ると、すごく触れたい衝動に駆られる。



「でさ…翔くん?…聞いてる?もっしもーし?」

ふっと、考え事に没頭していると、目の前でひらひらと手を振られて我に返る。
慌てて返事をした。

「あ、ごめん!聞いてた。聞いてたよ」
「…うそだ」
「い、いや嘘じゃないって!」
「じゃあ、俺、質問したんだけど、その答えは?」
「え、ええと…」

目を泳がせて、考えては見るも、ぼんやりとしていて聞いておらず、答えに詰まる。
そんな態度を見透かしたように大野が笑った。

「やっぱり聞いてないじゃん」
「ご、ごめん…」
「まったくもう、珍しいね?翔くんがぼんやりしてるなんて、何か悩み事?」

首をかしげて問われるその姿に胸がぐっとつまる。
なんでもないよ、と首を振ると怪訝な表情で顔を覗き込まれるが。
それを無視して、話を続けた。

「いや、本当、なんでもないよ。で、ごめん。何聞いたの?」

未だ、納得のいかないと言う表情でこちらを見ているが、何も話さないと思ったのか。
大野は話を元に戻した。

「うん、あのね、誕生日プレゼント。何が良い?」
「え?」
「誕生日、もうすぐじゃん?」
「ああ、そういや、そうだね」
「だから、何かほしいものがあるかなって思って…」

何が良い?
そう、大野に聞かれて、また答えに詰まる。
ほしいものは?と聞かれて頭に浮かんだのは。

…大野くんが、欲しいんだ。


他に、大野からほしいものなんて、なにひとつない。
何をもらっても嬉しいけれど、何をもらったってきっと満足できない。

だから、何も、いらない。


「…んー気持ちだけで、いいや」
「え?」
「今年は、別に、ほしいものないから。気持ちだけで良い」

そう言って、ありがとうと言うと大野が困った顔をした。

「…そんなわけにいかないじゃん」
「いや、本当に気にしないでよ」
「気にするよ、俺、もらってんだぜ?」
「うん、だけどいいから」
「よくないって」
「いや良いってば」
「よくないの!!何でもいいから言ってよ!」

迫るように近づいてくる大野に、のけぞるように下がりながら。
何でもいい、という言葉に体を固めた。

「…本当に、何でも、いいわけ?」
「え」
「何でもいいんだよね?」
「ま、まぁ、あんまり金かかるのとかは困るけど…」
「お金はかかんない」
「え?」
「ひとつだけ、大野くんから、欲しいもの、ある」
「え!本当?」

なになに?と嬉しそうに目を輝かせて、答えを迫る大野。
そんな大野に、もう一度、確かめるように、本当に何でもいいんだよね?と聞いた。
それに頷いた大野の瞳をじっとみつめる。

少しだけ、大野の瞳が揺れた。

「…なんでもいいなら、俺は」


…俺、は…!





答えを待つ大野の胸に、ことんと頭を預けた。
大野は、少しだけ慌てた声をあげた。
そんな慌てる大野を無視して、さらに強く額を胸に押し付けて言う。

「ごめん、ぎゅってして」

ちょっとでいいから、今だけ、ぎゅってして。
それが、誕生日プレゼントでいい。

櫻井がそういうと、大野は少し戸惑って。
そして、それから頭を優しく撫でる。

「…ぎゅってしたらいいの?こう?」

そう言って預けた頭と体に手を回してくれた。


強請ったって、絶対に手に入れられないのがわかっていて、強請るなんて、自分には出来ない。
本当は言いたかった。

欲しいのは、あんただ、と。

だけれど、そんなの困らせるだけだとわかっているから。
だから、言わない。
言えない。


だから、せめて。

少しだけ、触れさせて。
どうか、あなたに、少しだけ。


「…翔くん、お誕生日、おめでとう」


そう言いながら自分を包んでくれる大野に、自分は腕を回せないまま、あと少しだけ、と祈った。





祝ってないまま、おめでとう!