aporia





「…あれ、大野くんは?」

それはいつもの朝だった、たった一つをのぞいて。
ここ最近、気がつけば目の端に必ず映っていた存在が見えなくて、楽屋を見回す。
テレビに向かってゲームをしている二宮が、櫻井の独り言のような問いかけに気がついて首を振った。

「知らない。まだ来てないんじゃないですか?」

そう言われて、片隅に置かれている荷物に目をやる。
それはどう見ても、大野がいつも愛用している鞄。
どうやらもうすでに来ているらしいのだが、ここに姿がないだけのようだ。
櫻井は何故かそれを見て妙な胸騒ぎを感じた。
櫻井の目の届く所に大野がいないなんてことは別段日常であるのに、何故か今日に限って。
それは不安なのか予感なのか、そんな想いを胸に抱いていると、楽しそうな笑い声とともに大野が楽屋の扉から入ってくるのが見えた。
櫻井はその姿にその姿にほっとして、声をかけようとしたが、ぴたりと動きを止めてしまう。

大野の後に続いて入ってきた松本の、手が。
大野の手と、繋がっていたから。


瞬間、ツキンと、胸が痛んだ気がした。


…あれ?と櫻井は首をかしげる。
自分の所属するグループはスキンシップ過多だから、これくらいのこと今までいくらだってあったのに。
その時にはこんな気持ち、全然見当たらなかったのに。
何だろう、今のは…?なんて考えをめぐらそうとしたその時、大野がこちらの存在に気付いてうれしそうに笑った。

「翔くん、おはよ」

こちらに手を振る大野に、櫻井も軽く片手を上げて返す。
それに一瞬気持ちが持ち上がるも、未だ外されないままの松本の手に、何故か今度は気分が悪くなった気がした。

「翔くん、おはよう」

松本も手を外さないまま、櫻井に挨拶をする。
なんとなく、ちらりと松本を見つめて、挨拶を返す。

「…おはよう」

何故だか思ったよりもずっと不機嫌そうな声が出てしまって、自分でも驚く。
松本がその声を聞いて、喉の奥で声をかみ殺すみたいにして笑いながらこちらを見た。
それに櫻井は、自然と本当に不機嫌になっていく。

「…んだよ?なんか文句あるわけ?」
「べっつにー、自覚のない人は困ったもんだねと思って」
「はぁ?何がだよ?」
「それは自分で考えて」

松本はそれだけ言うと横で首をかしげている大野に声をかけて、そのまま手を引いてソファへと移動した。
そしてソファの端に大野を座らせると、それがさも当然のように頭を大野の膝めがけておろす。
そんな松本に少しびっくりしながらも大野は、ちらりとこちらを見て少しだけ困った顔をして。
それからしょうがないね、みたいな顔で松本の頭を撫でた。

櫻井の胸が、またツキンと、痛む。


今すぐ、二人を引っぺがしたい衝動に駆られて。
腕を伸ばしかけた、その時。
楽屋の扉から元気に相葉が入ってきて、思わず腕を引っ込める。


出しそびれた腕は、タイミングを逃したまま、宙を切った。