aporia
自分の機嫌が悪いのを、櫻井は自覚していた。
それが何故か、というのには気付けないままだったけれど。
その感情がむいている方向はなんとなくわかるのに、それが何なのかわからない。
「…翔、くん?」
撮影が終わり、さっさと一人で楽屋へ切り上げようと廊下を歩いていると、おずおずと気を使うように大野が横へと並んだ。
どうかしたの?とでもたずねるような表情で、下から顔を覗き込まれる。
それと同時に甘酸っぱいような気持ちと、苦い気持ちが同時にこみ上げてきて、なんだかわからなくて、目線を外した。
それに気付いたのか、大野が少しだけ、眉毛を寄せる。
「…なに?なんか用?」
そんな気はなかったのに、また不機嫌そうな声が出てしまって、自分でも後悔する。
大野が傷つくのがわかっているのに、まるでやつあたるみたいな態度。
大野と松本の顔を見ると、櫻井は何故だかひどく凶悪な気持ちが湧き上がってきて、撮影中も極力2人を見ないように努めた。
そんな俺の姿に、困ったような顔をして大野がこちらを見ていたのにも気付いていた。
「…俺、なんか、した?」
視界の端に、一瞬、傷ついたような瞳。
しまった、と思っているのにそんな心とは裏腹に、何故だかイライラした気持ちがさらに募る。
「…別に、なんにも」
冷たくそう言い放って、さらに目をそらす。
その瞬間、視界の端に、大野が櫻井に手を伸ばしかけて、迷ったように引っ込めたのが見えてさらに頭に血が上った。
松本には、あんな風に触るくせに…!
大野は、最近櫻井に触れない。
ずっと横にいたりするくせに、軽く手が触れ合うことすら避けるようにしてる。
松本だけじゃなくて二宮や相葉にだって気安く触れて、今まで以上のスキンシップが見えるのに。
どうしてだか櫻井にだけは触らない。
こちらがふと近づこうとすると、まるで拒絶するみたいに、さり気なくふれあいを避ける。
相葉や二宮、松本にはしないくせに。
自分に、だけ。
不安げに揺れる瞳を見ないようにして、大野に向かって言葉を放った。
「悪いけど、今、大野くんと話したくないんだ」
ひどいことを言っていると自覚はあるのに。
どうしても止めることが出来なくて。
何に対して苛立ってるのか。
松本になのか、大野になのか。
それとも自分に、なのか。
わからないまま、泣きそうに歪んだ表情を見ないようにしてその場を立ち去った。