aporia
「翔くんに話があるんだ」
悪いんだけど時間を作ってくれないか、と櫻井にそう言ったのは相葉のはずだった。
それに何を言われるのかと少し怯みつつも承諾をした櫻井に、少しだけ待っていてくれと、相葉は言った。
櫻井はその言葉に従い楽屋で一人ぼんやりと椅子に座って空中を眺めていた。
すると扉が開く音がして、相葉だと思ってそこを振り返ると立っていたのは大野だった。
それを目の端に据えた瞬間、櫻井の身体は固まってしまう。
「…ごめんね。俺が相葉ちゃんに頼んだんだ」
櫻井の態度を見て、大野は少し表情に影を落としながらも困ったように少しだけ笑みを作った。
「俺が呼び出しても、来てくんないかなって思って」
「…そ、そんなこと」
「あるでしょ?」
大野は、いいよ、わかってるから、とまた苦く笑う。
それから櫻井の目を見て、口を開いた。
「…あのね、ごめんね」
「え?」
「俺の気持ち、気づいたんでしょ?」
そう言われて櫻井は答えにぐっと詰まる。
「…やっぱり、ね。ごめん、気持ち悪くて」
「いや、そん…」
「でも、気持ち悪いついでに、もっと気持ち悪いって思ってくれても良いから、聞いて」
「え?」
「今から言うから、はっきりと俺の気持ち」
大野が、息をゆっくりと吸い込んだ。
そうして続ける。
「んでね、言ったら、振って」
そしたら、もう気持ちの悪い思いなんてさせないから。
すっきりきっぱり、もう翔くんに迷惑はかけないから。
大野はそう言って、もう一度息を吸い込んだ。
そうしてまた口を開こうとした。
その瞬間。
「俺は、翔くんのことが」
「ま、待って!!!」
櫻井が大野の口を押さえる。
大野が目をくりくりとさせて、驚いた顔で櫻井を見た。
「ちょっと、待って!俺の話、聞いて!」
「しょ…くん?」
「俺、大野くんのこと、気持ち悪いとかって思ってねぇ!!そんなこと思ってないんだ!」
「…でも、手、振り払ったし」
「あれは!驚いただけで!確かにちょっと、困ってるけど…でも!気持ち悪いとかそんなのは全然!」
「全然?」
「そう、全然思ってなくて!だから、その」
櫻井が一生懸命言葉を選び、不器用に大野に伝えようとしている。
大野はその一つ一つを、噛み締めるように受け止めて。
聞き逃さないように耳を澄ましていた。
櫻井は、少し唸るような声を出して悩んだ後に、ゆっくりとこう言った。
「ちょっと、待ってよ。俺、わかんねぇから、待って。…考えるから、ちゃんと」
大野くんのこと。
櫻井は、大野をまっすぐに見つめた。
大野はそれにまたパチクリと目を動かすと、少しだけ潤ませる。
「…それって、好きでいてもいいって、こと?」
「…う、うん」
「迷惑じゃないって、こと?」
「めいわく…じゃ、ない。そんなことない」
「…ほんと?」
「本当」
だから待って、と櫻井が続けると。
大野は花がほころぶように笑った。
櫻井の、胸が、どくんと音を立てる。
「うれしい…ありがとう、翔くん!」
「あ、え、う、うん…!」
櫻井が、自分の胸の高鳴りに動揺し、首をかしげる。
大野はそんな櫻井の様子に気づくことなく、笑顔で櫻井を見ていた。
櫻井はそんな大野を見るとさらに、胸が苦しくなる気がして…。
まさか、ね?
櫻井は何かが来る予感を感じながら、大野の笑顔を、食い入るように見つめた。
His love is beginning now...?