止まったまま進めない

僕の時間は、あの日、あの場所で、ずっと止まったままだ。





大好きだったその人に、さようならを告げられたのは、寒い時期だったとよく覚えている。
買ったばかりの白いマフラーを首に巻いて、初めて外で手をつないで歩いた。
夜だったから、まわりは暗くて、まるで僕たち以外この世界にはいないみたいに思えて。
嬉しくて嬉しくて、馬鹿みたいに浮かれてて。
…だけど、それは僕だけで。

ごめん、と静かに言われたあのときに、僕の心は止まってしまった。




「智さんが、好きだよ」

何度となく告げられたこの台詞に、曖昧な微笑を返す。
答えることができなくて、でも突っぱねてしまうこともできなくて、ただずるく笑う。
そうしたら翔くんも困ったように、笑うのだ。

「どうしても、だめなの?」
「どうしても、だめなの」

疑問形で聞かれたそれを、肯定で返して。
ごめんね、と心の中だけで謝る。
何度も、何度も、翔くんは、僕に好きだと伝えてくれた。
きっともう数え切れないくらいたくさん。
その気持ちはすごくすごく嬉しくて、だけど同時にすごくすごく痛い。
まるで数年前の自分を見ているようだから。

翔くんの真剣で熱っぽいまなざしは、無邪気に笑って恋をしていたあのころの自分を思い出すのだ。
自分もきっとああいう目をして、あの人を見ていた。
だから、答えられない。
翔くんの気持ちには、答えられない。
思い出すのだ、若かった自分を、どうしようもなく愚かだった過去を。

「…いつまで、だめなの?」
「さぁ、いつまでだろ?」

期限なんてきっとない、どこまでだめなのか、自分でもわからない。
あのときから、止まったまま進めないのだ。

「…俺、智さんが好きだよ?」
「…うん」

もう十分、知っているから。



ずるい僕を許して。