そんなのは嫌だ
冷たい冷たい視線。
怒らせてしまったのだと、冷や汗をかいた時にはすでに、遅かった。
険悪なムードが流れている楽屋。
半分は不機嫌なオーラをかもし出している櫻井のせいで、もう半分はその櫻井を怒らせた大野のせいだった。
壁に体を向けて大野を拒絶するようにして、乱暴に手に持っている雑誌をめくっている櫻井。
他のメンバーも皆、気まずそうな顔で誰からともなく顔を合わし、その後ろ姿を見てそっとため息をついていた。
怒らせた理由は、ほんの些細なことだった。
大野の言い方が悪かった、というか、言葉が足りなかったというのが正解だろうか。
大野は自分があまり、人に物事を伝えるのを得意としていないのをわかっていた。
だからもっと気をつけなくてはいけなかったのだ。
自分の失言に頭を抱えながら、ぼんやりと椅子に座って俯く。
見えた足先をぶらぶらと動かして、さてどうしようかと、頭をめぐらした。
いつもなら、大野に甘い櫻井は、自分が謝る前に先手を打っておいてくれる。
たとえば先に謝ってくれるとか、こちらが謝りやすい状況にわざと持っていってくれるとか。
だけれど今日の櫻井にはそんな気配は一向に見えない。
本気で怒って、目線も合わせてくれないどころか、顔すらこちらへと向けてくれない。
ただイライラとした後姿だけがさっきからずっと目に入ってくる。
いつも甘やかしてくれる櫻井に慣れていた大野にとって、この状況はどうしていいかわからなかった。
大野はつま先を床に押し当て、とんとんとリズムを取り出した。
とにもかくにも、許してもらうには謝るしかないということだけはわかっている。
ただその謝るという行動をどうとっていっていいのか、それを考えていた。
もう、ほっとこうかなぁ。
考える内に混乱してきた大野は、そんな考えを頭の隅に浮かべる。
正直言って、めんどうくさいのだ。
怒らせた自分も確かに悪かったけれど、あんな些細なことで怒る櫻井も悪いのだ。
そうだ、そうに違いない。
大野はうんうんと頭を頷かせた。
櫻井だって、そのうちきっと怒るのに飽きて、許してくれるだろう。
大野はそう考えて、そのまま腕を胸の前で組み、座っている椅子の背に背中を預ける。
そうして、目をつぶった。
いつもと同じように寝てしまおう。
大野は、こくりこくりと頭を漕がせる。
ほおっておけば櫻井だってそのうちまた自分を甘やかしてくれるはずだ。
だって。
櫻井だって、こんな状況やりにくいはずなんだから。
櫻井だって、いつまでもこんな状況嫌なはずなんだから。
櫻井は優しいし、だからきっと、ほおっておいたって、きっと…。
だけど。
だけど。
もし、この先もずっと怒ったままで。
ずっとずっと許してもらえなかったら、どうしたらいいんだろう?
大野はそこまで考えて、パチリと目を開けた。
…そんなのは、嫌だ。
大野は目が覚めたように、立ち上がると慌てて櫻井の後姿の前に立つ。
そうして、小さな小さな声で、まずひとこと。
「ごめんね?」
櫻井の肩がピクリと動いたのが見えた。