暗い道には気をつけて
電車の中で痴漢にあった。
まさかこんな年齢でしかも同性の男に、そんな目に合わされるなんて思ってもみず。
こんなことで女性の気持ちなどわかりたくもなかったが、こんな目に合う確率が高い女性に同情の気持ちを覚える。
「翔くん、へーき?」
コンサートで面白おかしく痴漢ネタで盛り上がったその後の楽屋。
大野くんが自分の前に来て気遣わしげに、顔を覗き込んだ。
「ん…平気。心配してくれたんだ?」
「まぁ、不本意ながら気持ちはわかるからね」
「大野くんも、ご愁傷様でした」
「いやいや、俺はもう随分前の話だしさ、ネタにしかなんねぇべ」
そう言いながらおかしそうに笑う。
それになんとなくつられて顔を崩して、自分より少しだけ低い頭に手をぽんっと置いた。
「心配してくれて、サンキュ」
そう言うと少しだけ上目遣いで俺を見上げた大野くんと目が合う。
少しだけドキリと胸がはねた。
「へーきならいいんだ」
「あ、う、うん…ぜんぜん平気。むしろ良いネタできたなって俺も…」
「でも2度と会いたくないよね?」
それに深くうなずく大野くんに、同じようにして深くうなずく。
そりゃもう絶対、絶対に会いたくない。
どれだけ面白いネタに仕上がったとしても、あんな状況、嫌でしょうがない。
心底嫌そうな顔をして思い返していると、智さんは眉を寄せた。
「…翔くん、ひとりでかえれる?」
「へ?」
「やっぱり、へーきじゃなさそう…」
「いや、子供じゃあるまいし、大丈夫だよ?」
「でも…」
少しだけ背伸びをされて、今度は逆に自分の頭をぽんぽんと撫でられる。
なんとなく複雑な面持ちで、ゆるく微笑みを返すと。
「暗い道には気をつけてね?」
そう言われて、なんだかさらに複雑な気持ちになった。