それなのに





くたばっちまえ、と思った。

目の前で、死んだように眠るその人を見て、このまま首でも絞めてやろうかと思った。
自分はこんなにも苦しい思いを抱いているのに、どうしてこんなにも気持ちよさそうに眠れるのだろう。
安心しきった寝顔には、自分を意識しているかけらも見られない。
こんなにも張り裂けそうなほどに胸が音を立てているのも、時折苦しくて掻き毟りたくなる様な衝動も。
すべて自分だけのものなのかと思うと、胸がぽっかりと空いたようなそんな気持ちになる。

いつからこんなにも好きになったのかなんて、知らない。
ただ、いつからか、こんな風にしてロケ先で2人っきりの部屋になると何故か眠れなくなった。
背を向けてみても、自分の背中が強烈に彼を意識しているのがわかったし。
本を読んでみても、文字は頭を通り抜ける。
時折聞こえてくる寝息や小さな喘ぐ声に、一層胸が高鳴って、妙な興奮を覚えた。
まるで熱が出たみたいに身体がカッとして、それがなんであるか気がついて、さらにそれは高まった。

彼に、欲情している。

たかが、寝息に、たかが、寝顔に。
それだけなのに、身体丸ごと全部もってかれて。

その次の日、初めてその人のことを思って、ひとりで熱を放った。

恥ずかしかった。
男で、仲間で、そして何より彼で、そういうことをしてしまったことがひどく。
だけれど、その日から幾度もそれを繰り返した。
止まらない想い、伝えられない想いを、ただひたすらに自分の中だけで処理し続けた。



そんな浅ましい自分の姿を知らない彼は、自分の横で無邪気な顔で眠っている。
今も、はだけた夜着から見える上下する胸元に、興奮が徐々に高まっていく。
このまま欲望だけに忠実になって、彼の上に襲い掛かれたら、少しは楽になるのだろうか。
けど、本当にそうしてしまったらきっと、もっと重たいものを背負うことになるのだろうけれど。

これは、恋と呼ぶべきものではない。
ましてや愛と呼ぶべきものでもない。
そう呼ぶには、あまりにも自分の感情は汚れている気がするのだ。
いっそ、もっと汚ければよかったのに。
自分だけでなく、彼をも汚してしまう覚悟があれば、自分はもっとずっとずるく生きられたはずなのに。

それなのに。



くたばっちまえ、と思った。


彼ではなく、自分が。