顔が熱くなる
大野は楽屋の隅で、雑誌の撮影の順番待ちをしていた。
本当なら眠りたいところなのだけれど、衣装を着ているし、メイクもしているから、それはさすがにできない。
それに多分もうすぐ、自分の番がやってくる。
そう思うと眠るに眠れない。
大野は、なんとなくすることもないので置いてある雑誌をぱらぱらとめくった。
その雑誌の上に影が落ちる。
「リーダー、何見てんの?」
アイドルスマイルで、ニコニコと覗き込んできた相葉が、隣の席に座り込んだ。
大野は静かに顔を上げる。
「暇だから、雑誌、読んでた」
「おもしろい?」
「わかんない。あんまり、真剣に見てなかったから」
「そっかー」
相葉は、会話をする気があるのかないのか、ニコニコと話してはいるが内容にはあまり興味がないようだった。
大野もさして、その会話にも雑誌にも惹かれるものはなく、静かに雑誌を閉じる。
そうして手持ち無沙汰になった手で、衣装の端をつまんで弄りだした。
相葉が、それをじっと見つめて、そして口を開く。
「大野くん、今日の衣装、かわいいね」
「そ?相葉ちゃんもかわいいよ。ピンク似合うしね」
「そっかなぁ?大野くんもグリーン似合うよ」
「そう?そりゃどーも」
大野は、また衣装の袖をつまみ、じっと見る。
相葉はそんな大野を見て、またニコニコと笑いながら続けた。
「でもね、首元、もうちょっと隠した方がいいと思うよ?」
「へ?」
「虫さされが見えてるから」
「虫??」
大野は相葉に指差された首元を鏡で覗き込むようにして確認する。
そこには確かに虫に刺されたような赤い痕があった。
大野は首をかしげる。
何かに刺された覚えがなかったからだ。
こんなに赤くはれ上がるほどに刺されたのなら、いくら大野と言えども気づくはずだ。
「随分でっかい虫にかまれたんだねぇ」
「…どこでかまれたんだろ?こんなの、」
気づかなかった、と続けようとして大野は口をあっと開く。
これは虫刺されなんかじゃあない。
思い当たった事実に、大野は思わず頬に朱をはしらせる。
「…大野くん?どしたの?顔、赤いよ?」
熱?などと相葉が的外れなことを呟いている。
大野はとりあえず、なんでもない、と顔の前で手を振って見せた。
これに気づかれたのが、二宮や松本でなく、相葉で良かったと大野は少しだけほっとする。
「なんでもなくないよー!赤いもん。赤いもん」
「いや、本当、大丈夫。なんでもないから」
頼むから、あまり触れないで欲しいと大野は心の中で続けた。
相葉はそれでもキャンキャンと、まるで犬のようにつっかかってくる。
心配をしてくれるのは嬉しいのだけれど、今、この状況においてはありがた迷惑以外の何者でもなかった。
そんな風に大野が困っていると、楽屋の扉からコンコンとノックの音が聞こえる。
そこから顔馴染みのスタッフが顔を出すと、2人の番だから、と声をかけた。
大野は、しめた、とばかりに立ち上がり、未だ納得のいっていない相葉に行こうと即す。
そうして、立ち上がる瞬間に少しだけ襟元を立てて、虫刺されに見える赤い痕を隠した。
楽屋からスタジオまでの道すがら。
相葉が少しだけ笑ってこう言った。
「大野くん、でっかい虫に、今度はもうちょっと違うとこ刺してって、たのんどきなね」
…わかってたなら突っ込むなよ、と大野は相葉を恨めしげに見上げた。