怖がらないで一歩踏みだして





櫻井翔という人間は、しっかりしているように見えてもろい部分がある。
普段はとても頼りになるし、自分よりもはるかに年上に見える時すらあるのに。
それでもふとした瞬間、唐突に子供の顔を見せる時がある。
それは一番年下の松本よりも、少年っぽさを残している二宮よりも、唐突にとんでもないことを言い出す相葉よりも。
誰よりも、一番子供っぽく見える。

服を脱がせようとしている手が震えていた。
まるで、大事な宝物でも触るみたいに、触れられない何かに手が届くときみたいに。
そんな風にして大事に扱われるのは嫌いじゃないけれど、でも自分はそんなに脆いものではない。
まるで神か仏か、聖なるものを見るような目で櫻井はたまに大野を見る。
正直、やめて欲しい。

大野は、そこまで汚い人間ではないが、そんな目で見られるほどキレイな訳でもない。
お腹が減れば不機嫌になるし、うまくいかないことがあれば苛立ちもする。
それなのに目の前の彼はまるで、自分を見ていない気さえするのだ。
大野が、そういう人間であることを一番わかっているのは櫻井であるはずなのに。

震える手にボタンをゆっくりとはずされていくのを見ながら大野はそんなことを考えていた。
そんなに怖がらなくてもいいのに。
少しくらいぞんざいに扱っても、壊れない自信くらいある。
抱きたいと言い出したのは櫻井だったけれど、抱かれても良いと思ったのは大野だ。
だから、覚悟くらい出来ている。

「翔くん」

震える手をつかんで名前を呼んだ。
不安に揺れる櫻井の目が、大野を捕らえて、さらに揺れている。
大野は手をつかんだまま、もう一度名前を呼んだ。

「翔くん」
「…大野、くん?」

遠慮がちに呼ばれた名前に、大野は微笑んでみせる。
掴んだままの手を持ち直して、ぎゅっと胸に握りこんだ。

「…大丈夫だから。俺、大丈夫だから、さ」

手に、大野の心臓の音が伝わるようにぎゅっと押し付けて抱きしめる。
言葉がうまく伝えられない大野の、精一杯のメッセージ。

櫻井はそんな大野に少し、安心したのか、ガチガチに固まった表情を緩めた。

「…大野くん、俺」
「ん?」
「好きだから、大野くんが。だから…」

いい?
声に出さずに聞かれた言葉、もう何度も確認しているはずなのに、でも多分これが最後の1回。

大野は静かに頷いて、目を瞑った。