TRAFFIC JAM




待ち合わせ場所まで後数分、というところで渋滞に巻き込まれた。
イライラとハンドルを手で叩きながら、前方に続く車の赤いランプが目に入る。
どうしてこんな日に限って。
いつもならすんなりと通れるはずのこの道の先では、どうやら交通事故があったらしい。
滞ってしまった車を見ながら、ため息をつくとおもむろに携帯を取り出した。
2つ折りのそれを開けると、待ち合わせの相手に素早くメールを打って、また閉じる。
そしてすぐさま、メールの返信音。
慌てて開いて見ると、「了解」の一文字。
渋滞に巻き込まれたから、ちょっと遅れます、という櫻井のメールに対する返事。
こちらも事務的な入れ方をしたけれど、さらに短い返信に、ふっと笑みが漏れてしまう。
相変わらずだなぁなんてぼんやり思ってメールを見ていたら、少しだけ車が進んだのを確認して、慌てて携帯を閉じた。





待ち合わせ場所について、手を振っている相手を見つけて、車を止める。
少し眠そうな顔をしている待ち合わせの相手、大野は、上げた手を下ろしながら小さな欠伸をした。
櫻井はそんな大野を見てさらに申し訳ない気分になって、乗ろうとして扉を開けて顔を出した大野に開口一番に謝ったら、苦笑いされる。

「いいよ。気にしなくて」
「でも、暑かっただろ?どっか中で待っててくれてもよかったのに」
「だってそれじゃあ、翔くん来るのみつけられないじゃん」
「いや、携帯鳴らすし」

そう言うと、大野は少しだけ眉を下げて困った顔をする。
え?何?と聞き返すと、大野は何も言わずに、座席に座ってシートベルトをつけた。
櫻井はさらに追及しようと思ったが、どうやら答えてくれる気がないらしい気配に、それを諦める。
こうなってしまってはひたすら困った顔をくっつけて微笑むばかりだ。
その顔に弱いこちらとしては、それ以上の行為は無駄であると判断せざる終えない。
櫻井は、まぁいいかと軽くため息をついて、大野にシートベルトが着用されたのを確認すると車を出した。

「きょうはどこいくの?」

車を出した櫻井に、大野は首をかしげた。
櫻井はそんな大野を横目に見ながら、ドライブでもしようかなと答えた。
明確な目的があって車を出したわけではなくて、ただふたりでいたいだけだったから場所なんてどこでもよかった。
どこか静かな所でふたりでいるのもいいし、と呟くと。

「海いきたい」

そう言って、笑ったから、行き先は決定した。





今日は、一体なんだと言うのだろう。
目の前に続く赤いテールランプを見ながら、またため息を吐いた。

「面白いくらい混んでるねぇ」
「今日はついてねぇなぁ」

またどこかで事故でもあったのだろうか、海へと続く道も交通渋滞。
櫻井はまたイライラをぶつけるように、トントントンと指先でハンドルを叩いた。

「あー…智さん、つくまで寝てていいよ?」

運転している自分は別として、乗っているだけの大野にはこの渋滞ではつまらないだろうと思い、そう言う。
大野は櫻井に対して首を振ると、起きてるからいいよと言った。

「つまんないでしょ?」
「そんなことないよ」
「…俺のことなら気にしなくていいよ?」
「そうじゃないよ」

大野はまた小さく首を振って、それからちょっとはにかんだように笑う。
そうじゃないって?と聞き返そうと思った時には、列を連ねてる車がちょうど動き出してしまって。
また聞くタイミングを逃す。
さっきからこんなのばかりだ。
仕方なくゆるゆると動き出した車の列に視線を映すと、横から見られている気配を感じだす。
どうやら横顔を見られているみたいで、少し気恥ずかしい。
目線だけはきちんと前の車を追ったまま、櫻井は大野に話しかけた。

「…俺、顔になんかついてる?」
「ううん。別に。ただ」
「ただ?」
「…ちゅーしたいなって、思っただけ」

思わず、身体が揺れて、車も揺れる。
あぶないよ!と大野が叫ぶ。

「だ、だって…智さんが、智さんが」
「いや、運転してる翔くんって、かっこいいなぁと思って」
「はぁ…?」
「僕ね、運転してる翔くん好き。だから今日も外で待ってたの」
「え…?」
「翔くんが運転してくるの、見たかったから、暑いけど外にいたんだよね」
「な、なにいって」
「ね、あとで、ちゅーしていい?」

そう言って、横顔を見て笑う大野に、櫻井は顔を伏せたくなった。
実際に伏せてしまったら、運転に支障が出るからそうはしなかったけれど。

「………智さん。死にたくなかったら、ちょっと、黙ってて」

とにかく、目的地に着きたいと、櫻井は思った。