14:真実と嘘と…。
あれから、連休に入った。
普段なら学校へ行く時に会ってしまうけれど、3日という休みは僕と翔くんの間に距離を置く結果となった。
いつもの休みならば両方に用事がなければ、どちらかの家でのんびりとふたりで過ごすのに。
今は、すぐ隣の窓すら開けず、カーテンを閉め切って、一度も顔を合わすことはなかった。
こんなのは初めてだった。
会わない間に考えたことは、色々ありすぎて、一言ではいえなかった。
突然の翔くんの行動は、僕の心に嵐を巻き起こした。
嵐を巻き起こさせたのは、僕のせいだったけれど。
翔くんの行動の意味がわからないほど、僕は子供ではなかった。
うすうすと感じていたのかもしれない。
けれど、それを肯定する勇気も否定する勇気もなくて。
翔くんは、僕が好きなのだ。
それを僕はずっと昔から知っていたし、ずっと感じてきていた。
気付かないふりをしたわけじゃない、あまりにも当たり前だったから気付けなかったのだ。
いつも熱を含んだ優しい瞳で見ていてくれたことを僕はちゃんとわかっていた。
わかっていて無視したのだ、無意識に。
そしてもうひとつ無意識に無視していたことも、自然と浮かんできた。
突然の翔くんの行動に、恐ろしいと思う心の奥底で、甘いものを感じて。
嫌だ嫌だと叫ぶ、心のむこうで、激情した翔くんを嬉しく思う自分がいたことを僕は否定出来ない。
そう、僕も、翔くんが好きなのだ。
あまりに当たり前すぎて、わからなかった、気付こうとしなかったその想い。
本当は留学を決める時にわかっていた。
どうして、翔くんと離れるのが嫌だったのか。
どうして、翔くんに言う事が出来なかったのか。
そんなの、答えは簡単だったのに、僕はわざと考えなかったのだ。
理由なんて、ひとつだって考えようとしなかった。
翔くんが切れたあの夜、僕は泣いた。
互いの想いに気が付いてしまって、僕は泣いた。
互いの気持ちが同じで、嬉しいという気持ちよりも、悲しい気持ちが大きくて泣いたのだ。
だって、僕には、翔くんを傷つけることしか出来ない。
僕たちはとても、悲しいことに同じ性別で生まれてきてしまった。
そんなことはどうでもいいと言ってしまえば、どうでも良いのかもしれない。
だけれど。
僕は良い。
僕は、翔くんのためならなんだって我慢できるし、なんだって堪える事が出来る。
けれど、その同じだけの辛さを翔くんに味合わせたくないのだ。
翔くんは、僕にとって、とてもとても大事な人間だ。
他には代えることの出来ない、たった一つの宝物のような、そんな存在なのだ。
そんな彼に、辛い思いをさせるなんて、考えられなかった。
世間から白い目で見られたり、蔑まれたりなんてして欲しくない。
僕が想いを告げれば、きっと君は同じように想いを返してくれる。
だけれど、僕にはそれは出来ない、大切すぎて出来ないのだ。
翔くんの未来が、壊れてしまうから。
僕は、僕の幸せよりも、翔くんの幸せのほうが大事だから。
だから。
翔くんは、僕を好きなんかじゃない。
そう思うことに、決めた。
僕は僕の恋を、片想いのまま片付ける。
このまま、なかったことにして、飛び立ってしまえば良い。
そうすれば、翔くんは、きっと。
もっと別の、幸せになれる道を探すはずだから。
朝になる。
僕はいつもの通り翔くんの家の前に立つ、何事もなかったように、何事も起こらなかったかのように。
忘れたふりをして、なかったことにして、すべてをリセットして。
翔くんは、家の前に立つ僕に驚いた顔をした。
痛そうな、泣きそうな顔。
ああ、そんな表情は君には似合わないから。
だから、翔くん、なかったことにしようよ。
「おはよう」
「おは…よう」
「早く、学校行こう、遅刻しちゃうよ」
「あ、う…ん」
ほら、と駆けるように少し前へ行く。
翔くんは困惑した表情でその場に立ち止まる。
そして何かを言いたそうにして、決心するかのように僕の名を呼んで、待ったをかけた。
「…智さん、この間は」
「翔くん!僕ね、今日、体育なんだ。バスケなんだよ、楽しみ」
言いたい言葉をさえぎって、いつもの通りにする僕。
ごめんね。
ごめんね。
心の中だけで謝る。
「それからね、2限は英語でさ。また予習とかしてなくて、裕貴くんに見せてもらわなきゃなんねぇんだ」
だからさ、行こう?
いつものように笑って、必死に笑って。
僕たちの間には、何も起こらなかったんだよって伝えるように、笑う。
翔くんは、悲しそうな表情を見せた。
すべてをなかったことにしようとしている僕に気が付いたのだろう。
きっと、自分の想いを否定されたと思っているんだろう。
本当は、僕も同じ気持ちだよって伝えてあげたい。
あげたいけれど。
「翔くん、遅刻しちゃうよ?」
僕は翔くんに無理矢理、リセットをかけさせようとしている。
翔くんは顔を1度俯かせて、それから震える声を出した。
「うん、そうだね…遅刻しちゃうね」
上げないままの顔の下はきっとひどく傷ついているとわかっているのに。
僕は何も気付かせないまま、何事もなかったように笑った。
僕は今、とても残酷なことをしているのだと、わかっている。
しばらくして、顔を上げると翔くんもいつものように笑った。
そして大股で僕の隣に並ぶ。
「…行こうか」
「うん」
リセット。
真実は嘘の中に隠れた。
果たしてそれがあっているのか間違っているのか、僕にはわからなかった。
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