18:雨宿り
また雨が降ってる。
そう思って、馬鹿みたいに、靴箱で立ち尽くす。
これで2度目だなぁなんてぼんやりと思った。
1年も経たないであろう少し昔にも、同じようにして傘を持ってこず、置き傘もしておらず立ち尽くした。
あの時は翔くんに助けてもらったんだっけ、と思ってから口の端に苦々しい笑みを浮かべる。
この期に及んでまだ翔くんに助けてもらえるのではないかと思った自分がいたからだ。
なんて馬鹿なんだろう。
そんなことはもうありえないのに。
あれから季節はもう移り変わり、僕たちの関係も移り変わった。
気付いてしまった、とても大事だったことをなかったことにしたら、
僕たちの関係もすべて最初からなかったみたいになってしまった。
翔くんにはかわいい彼女が出来た。
何度か一緒に歩いている所を遠くから見た事があって、あんまりに苦しいからすぐ目線を逸らした。
自分が望んだ結果だったはずなのに、実際目の当たりにしてみると思った以上にきつい。
そんなの自業自得だよ、と自分を軽蔑した。
だって一番辛かったのはきっと翔くんだったろう。
僕は翔くんの気持ちを踏みにじったのだ。
だから、こんな僕なんて、苦しめば良いのだと思う。
これは罰なのだ。
すべてをなかったことにしてしまった僕への。
目の前に降り注ぐ、雨にため息を吐く。
待っても止みそうにない雨に、きょろきょろと周りを見渡して、走って帰ることを決意した。
また屋根のあるギリギリの位置に立って、一歩を踏み出すと。
やっぱり濡れるはずの身体は濡れなかった。
上を見上げると、傘を差した、翔くん。
「…傘、使って」
差し出されて押し付けられる。
僕は掠れた声で、いいよ、いらないと告げると。
「いいから。俺、どうせ生徒会あるし」
前の時と同じ状況なのに、どこかよそよそしい声色に、胸がずきずきするのを押し隠して。
「なら、尚更借りれないよ」
首を振った。
だけれど今回は、翔くんは引かなかった。
「いいから、俺、入れてもらえるし」
入れてもらえるし。
入れてもらうから、ではなく、確定された決定事項。
誰に、なんて聞く必要もない。
前のように、頬をかいて嘘をついているわけでもない。
当たり前のように告げられたその言葉に、傷ついている自分がいて、また軽蔑した。
「返す時、家の前にでも、置いといてくれれば良いから」
「でも」
「…いいから、持ってって」
傘を握らされて、トンと背中を押される。
あ…と振り返ったときには、もう翔くんは校舎の中へと走っていった。
そして見てしまう。
その向かった先にいる、彼女を。
翔くんは当然のように横に並んで、一緒に校舎の奥へと消えていった。
苦しい。
胸が苦しくて、苦しくて、しょうがない。
借りた傘の上に振ってくる雨が、まるで鉛のように重たく感じた。
こんなにも、こんなにも苦しいだなんて思わなかった。
だけれど。
もう少しの我慢だから。
遠くへ、行くのだ。
もう少しすれば、あの姿を見ようと思っても見ることができなくなるほどの遠くへ行くのだ。
そうすればきっと、この苦しい気持ちからも開放される。
はやく、はやく、行きたい。
遠くへ、翔くんのいないところへ行きたい。
数ヶ月前とまったく逆のことを思いながら、ぎゅっと翔くんの傘の柄を握った。
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