19:雫




パタパタと窓に当たる雨を見る。
傘を貸した幼なじみは、濡れずに無事に家に着いただろうか、なんて考えてため息が出た。
放って置けばよかったのに立ち尽くす後姿を見ていたら、手に持った傘を差し出しに走っていた。
声をかけてひどく困った瞳をした智さんに傘を無理矢理押し付けると。
なんだかひどく久し振りに会話をした気がして、少しだけ緊張する。

背中にトンと触れた手、ひどく熱を持った気がして、見つめてみる。
結局、自分の心は進んだように見えて、何一つとして進んじゃいないことに気が付いた。
俺の心は相変わらず、智さんを中心に回っているんだと。
苦い気持ちの奥にまだある、甘い気持ちを消す事が出来ないのだと思い知らされる。



「…翔くん?」

名前を呼ばれて振り返る。
気が付けばもう、生徒会室には自分と、彼女しかいなかった。
雨のせいもあって、外はもうすっかり真っ暗で、雨の雫だけが窓に光って見える。

「ああ、ごめん。そろそろ帰る?」

作り笑いを浮かべて、声をかけると、彼女は一瞬それに笑顔を返して、それから悲しそうな表情をする。

「どうかした?」

その顔が気になって、尋ねると。
彼女は今度は困ったような表情で言った。

「どうかしたのは、翔くんじゃない」
「え?」
「変よ、翔くん。今日はずっと上の空」
「…そんなこと」
「ううん、今日だけじゃない。もっと、本当はずっと前から変」

言われて呆然とする。
目の前の少女は、驚いた俺の顔を見て、やっぱりね、と呟いた。

「ねぇ、翔くんは…いつも何を見てるの?」
「何って…」
「…私じゃないことは、確かだよね?」

泣きそうな顔で笑うその表情に、自分がずっと彼女を傷つけてきていたことに気付く。

「俺…」
「あのね、翔くん、何を見ているのか知らないけど、見てるふりは卑怯だよ」

涙を堪えるように、笑われて、さらに胸が痛んだ。

「ごめんね。もう、私、騙されてあげられないや」

そう言って、帰るねと走り去った彼女。
俺は、自分のことだけを考えて、あの優しい少女を利用した。
あんなにも、自分のことを想っていてくれたのに。
ごめんだなんて、俺のセリフ。
俺は傷つけるだけ、傷つけて、利用した。
ごめん。
ごめんなさい。


彼女のことを、好きになれると思っていた。
きっとこのまま過ごしていけば忘れられるのだろうとそう思っていた。
だけれど、結局、駄目だってことに気が付いただけで。
そしてそれに気付いたのが俺よりも、彼女の方が先だった。
それがさらに彼女を傷つけた。


なんて、馬鹿なんだろう、俺は。


雨の雫が窓に当たって、まるで涙のように窓を伝った。




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