20:証
「翔くん、彼女と別れたんだって?」
唐突に切り出された裕貴くんの言葉に、もう知ってるんだと苦笑いする。
どうしてこうも噂というのは広まるのが早いのだろうか。
そんなに目立った行動をしているつもりもないのに、何故か自分が言うよりも先に皆知っているのだ。
「あー、まぁ、うん」
曖昧な返事を返して下を向く。
裕貴くんは、それに表情を変えずに、そうかと呟く。
「まぁ、翔くん、無理してるように見えたから、良かったんじゃない?」
「…俺、そんな風に見えた?」
「少なくとも俺には、そう見えたよ」
「彼女にもそう見えてたんだってさ…」
「…うん」
頭を撫でるように叩かれて、情けないなと思う。
裕貴くんは困ったような顔で、切り出した。
「だってお前好きな人、別にいるだろ?」
当然のように言われて、驚いて顔を見る。
裕貴くんは少しだけ口の端をあげた。
「俺、お前と何年友達やってると思ってんだよ?」
「裕貴くん…」
「多分、誰かも当たってると思う」
そう言われて、思わず顔を背ける。
気付かれていないはずはないと思ってはいたけれど、言葉に詰まって、顔を逸らした。
「…軽蔑、しねぇの?」
「するわけないじゃん」
きっぱり、はっきりと真剣な目で見られて、危うく泣きそうな気持ちになった。
こんな風に自分の想いを誰かに認めてもらったのが初めてだったから。
「俺は、お前の味方だよ」
「…サンキュ」
小さく、聞こえるか聞こえないか位の声で礼を言うとぽんと背中を叩かれる。
すべてこぼれ出してしまいそうで、下げたままの顔を俺は上げられなかった。
智さんが好きなんだ。
一度も、誰にも、智さんにすら口に出したことのない気持ち。
こうやって誰かに知ってもらっていた事が、ひどく嬉しかった。
「翔くんさ、聞いた?…出発の日」
聞くはずも、聞けるはずもなくて、小さく首を振る。
ほとんどと言って良いほど年が明けてから、会話をしたことがなかったし。
家でもなるべく智さんの家の話題を持ち出されないようにしていた。
だから知らない。
「いつに、なったの?」
「卒業式の次の日、だってさ」
「そっか…」
言われたその日付はあと1ヶ月もしないうちにやってくる。
ずっとずっと傍にいたあの人が、いなくなってしまう。
「あのさ、いいわけ?このまんまで?」
心配そうな声色で尋ねられて、緩やかに笑うしかない。
「俺さ、振られたんだよね。だから、どうしようもないよ」
振られた、という言葉はふさわしくないのかもしれない。
気持ちは一度も言わなかった。
ただ、伝わってしまったのだと思う。
だけれどそれに智さんは答えることも、断ることもせず、なかったことにしてしまった。
「振られたって、気持ちを伝えてか?」
「…いや、伝えてはないけど」
ふーんと、考え込むように裕貴くんは呟いた。
「…俺からの1つ、アドバイス」
「え?」
「気持ちは伝えた方が良いぜ。でないと、多分、後悔する」
そう言って、また背中をぽんと叩かれる。
後悔なんて本当は、もうずっとしていた。
何を後悔しているのか、わからなくなるくらい、ずっと。
なんでこうなってしまったんだろうと考えるたびに、どうせこうなってしまうなら、せめて。
せめて、自分の気持ちを伝えるくらいすればよかったのだ。
裕貴くんが、叩いた手で背中を小さく撫でた。
それに本当に小さな小さな勇気を貰う。
「…当たって、砕けようかなぁ」
ちょっとだけまた泣きそうな気分で、そう言ったら、裕貴くんが満足そうに笑ったのが見えた。
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