21:違い
櫻井さんの家とホームパーティをするからといわれたのは、今朝のことだった。
もうほとんど、後は卒業式を残すだけで、登校日も終ってしまった3月。
出発まであと何日と数えられるようになった。
翔くんとは、相変わらずのままだ。
耳を塞いでいても、聞こえてきた噂で彼女と別れたと聞いた。
その話を聞いて、心のどこかで喜んだ自分が許せなくて、さらに自己嫌悪が増す。
なんて自分は最低なんだろうと思う。
「それじゃあ、智くんの前途を祝ってカンパーイ」
グラスをかちりと合わせる音が聞こえる。
僕の送別会と称されたホームパーティは、つまるところ親たちが騒ぎたいだけの宴だ。
並べられた料理は、うちの母親と翔くんの母親が共同で作ったものであり、お昼過ぎからバタバタと用意する音が聞こえてきた。
たまにこんなふうにして両家合同のパーティは交互に互いの家で行われる。
本日は僕の家であり、櫻井家の皆がこちらの家に来ていた。
小さな頃から幾度となく行われたこの行事に、もうすぐ参加できなくなるのだなぁとぼんやりと思う。
そして斜め前にいる翔くんに目線を向けた。
ふいに目があって、ドキリとする。
そうしてそらされるかと思った瞳は、僕を据えたまま、微笑んだ。
「智さん、食べないの?」
まるで本当に何もなかった時のように、話しかけられて、口を開けて見上げる。
翔くんはそれを気に留めず、いくらかの食べ物を入れた皿を差し出してきた。
俺は静かにそれを受け取ると、ありがとうと呟く。
「どういたしまして」
そう言って自分の皿に意識を戻す翔くん。
なにもなかったように、振舞う彼は僕に対する気持ちを吹っ切ってしまったのか。
そう願っていたのは自分のはずなのに、ひどく悲しくてやるせない。
じんわりと目の端に涙が溜まりそうになって慌てて止めた。
こんな所で泣くわけには行かない。
かきこむようにして、皿に盛られた料理を口に入れて、それを堪えた。
子供たちの宴は終わりを迎える。
これからは大人の時間だから、とビールを片手に手を振られて大人はずるいと呟いた。
結局やはり、僕の送別会など騒ぐための口実でしかないのだと改めて認識してため息が出た。
まぁそれもいつものことだし仕方がない、と思うと自分の部屋への階段を上がろうとした。
そこで静かな声に呼び止められる。
「智さん」
びくりと身体が反射的に揺れて、振り向く。
少しだけ困ったような笑みを浮かべた翔くんが、ちょいちょいと僕に手招きをして見せた。
「ちょっと、いいかな?」
「え?」
「時間はそんな取らせないけど、話があるんだ」
胸が、苦しい。
どこか吹っ切れたような表情で話しかけられて、逃げ出したいような気持ちになる。
返事が出来なくて、つったっていると。
ひどく真剣な顔になって、お願いだから、と低く呟かれた。
僕はその顔に、頷くと数段上った階段をゆるりと下りた。
「…話って、なに?」
階段を下りて、翔くんの目の前に立つ。
だけれど目は見れなくて、不自然に逸らしたまま、声を出した。
「ここじゃちょっと…だから、俺の部屋に来て」
すぐ右横の部屋で、自分の両親や翔くんの両親の楽しそうな声が聞こえている。
それを妙に遠くに感じながら、ひどく自分が現実から離れているような気がした。
翔くんは僕の腕を柔らかく握ると、ごめんと謝って連れ去るようにして、引っ張った。
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