04:お姫様
「厳正なるくじ引きの結果、お前がお姫様な」
にっこりと笑う親友の顔を、殴りたいと思ったのは、多分今日が初めてだった。
新入生歓迎会と称したお祭騒ぎを1ヵ月後に控えたある日。
自分が生徒会の副会長などという面倒な役職を引き受けてしまったことを、ひどく後悔した。
「ちょっと待ってよ、裕貴くん!なんで俺が?!」
「だから、くじ引いて当たったんだから当たり前だろ」
ほら、と何度も俺の引いたあたりとでっかく書かれた白い小さな紙を目の前にちらつかせられて、言葉に詰まる。
その横では他の役員が、楽しそうに、ひらひらの白いドレスをこちらに向けて差し出している。
拒否権はないのかよ、と睨むように1つ上の親友を見つめると、意地の悪そうな笑みで首を振られた。
「覚悟、決めろよ」
そう言われて押し付けられたそのドレスをため息混じりに受け取る。
着たこともない真っ白なドレス。
新入生歓迎会で、生徒会全員で劇をやろうと決めたのは会長の裕貴の一言だった。
演目は確か、白雪姫だったか、シンデレラだったか、まさか自分にそれが回ってくるなんて思わず、あんまり覚えていない。
大体女子の役員だっているって言うのに、何故、ヒロインをくじ引きで決める必要があったのか。
面白がってやっているのはわかっていたが、まさか自分にそれが回ってくるなんて。
しかしまるで確信していたかのように笑った裕貴くんの顔だけは、きっと一生忘れない。
裏で工作でもされていたのではないだろうか、と疑いの念まで持ってしまう。
そんなことを考えながら試行錯誤して着たドレス。
ご丁寧にもどこから用意されたのか、大きな鏡が目の前にあって、嫌々ながら自分の姿をそれに映した。
…思った以上に似合ってない。
自分で言うのもなんだが、遠目に見る分にはまだ良いとしても、筋肉質な腕が可憐なドレスの先から伸びているのはどうしたっていただけない。
誰にも見せずに、このまま脱いでもかまわないだろうか、と。
ドレスに手を掛けた途端、着替えたか?と裕貴くんが顔を出した。
だからどうして、あんたはそんなにタイミングが良いんだ。
「…ぶっ…結構気持ち悪いな」
自分で着せておいて、その感想はないだろうと少しカチンと来るが、似合うといわれるのもまた複雑で。
「翔くん、顔がかわいいからもっと似合うかなぁと思ったんだけど」
「似合ってたまるか」
苦虫を潰したような顔で低く呟くと、おかしそうに裕貴くんは顔をゆがめた。
とりあえず、みんな楽しみにしてるから出てこいよと言われる。
出来ればこのまま脱ぎたくてしょうがないのだけれど、1ヵ月後にはどうせ全校生徒に見られるんだから諦めろと続けられた。
仕方なく、大きなため息をついて、皆のいる部屋へと移動する。
「しょ、翔くん…ぎゃははははははははは!!!!」
生徒会室に入った途端、役員ではない見知った顔が、一番最初に目に入る。
こちらを見て指をさし、目の端に涙をためているその人は、出来ればこの姿を一番見られたくなかった人。
「さ、智さん!?なんでここに!?」
「俺が呼んだ」
楽しげに、裕貴君がするりと俺の横を抜けて智さんの横へと立つ。
智さんはまだ俺を指差して、ヒーヒーおなかを抱えて笑っていた。
「お、面白い物が見れるからって、裕貴くんに言われて来たんだけど…ぶっ…!」
一瞬、堪えるようにして話した言葉もまた笑いの渦に消えていく。
なんて余計なことを、と呟かずにいられなかった。
「もーあんま笑うなよ!」
ずかずかと、白いドレスを引き摺って、智さんの横へと並ぶ。
智さんは興味津々に笑いながら、そのドレスに手を伸ばしてきた。
「あーおかしい。翔くんと付き合い長いけど、こんな姿初めて見た」
「…一生見せたくなかったよ」
「あ、写真撮ろう!写真!おばさんとおじさんに見せなきゃ」
「勘弁してよ…」
そう言った俺の言葉を無視して、カメラカメラと騒ぎ出す、大野の手を掴む。
もうこれ以上は居た堪れなくて、頼むから、と頭を下げた。
「…よく似合ってるよ?」
慰めるようにして言われたそのセリフが、一番胸に突き刺さった。
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