05:居心地
うとうとと、陽の当たる部屋でうたた寝をしてしまう。
ここは春の陽射しがとても気持ちよくて、いつ来てもほとんど眠ってしまう。
だけど、ここは自分の家ではないから、いつも必死で目を開けて起きようとすると部屋の主が、優しい笑顔で。
「寝て良いよ?」
と語りかけてくれる。
そう言われると、人のベッドであるとわかっているのに、潜り込んで眠りを呼んでしまう。
ベッドに入ると、いつもすぐ傍にある安心する匂いに囲まれて、あまりの居心地のよさに気がつけば夢の中。
次に目が覚めると、学習机で本を読んでいるこの部屋の持ち主が目に入るなんてパターンは日常茶飯事。
そして今日も、例によって例のごとく。
「…ごめん」
むくりと起き上がって、その背中に声をかけると、それは振り返った。
いつものことだけれど、全然嫌な顔をせずに僕を振り返る翔くん。
いい加減、怒られても仕方がないって思うのに、いつだって怒られたことなんてない。
「よく寝れた?」
「…寝れた」
そう、じゃあ良かった、と翔くんは開いていた本を閉じる。
多分きっと僕には理解できない、たくさんの漢字が並んだ本は、翔くんの手から本棚へと滑り込んでいく。
休みの日は7割くらいの確率で、翔くんの家にお邪魔している事が多い。
何をしているわけでも、何をするわけでもないけれど、ただぼんやりと二人で過ごすだけ。
そして僕はその大半を、翔くんのベッドで夢を見て過ごす。
翔くんはその間、ただ本を読んだり、音楽を聴いたり、勉強したり。
二人でいる意味のないことばかりをしている。
1度起こしてくれても良いよ、と言ったけれど、気持ちよさそうに寝てるし、別に良いよと言われた。
それに起こしたところで何をするわけでもないし。
確かにそうだ。
小さな頃は、探検ごっこだの、ヒーローごっこだの、テレビゲームやカードゲームに夢中になったものだけれど。
今ではそんなことはしないし、出来るはずもない。
互いに趣味はあるけれど、それは共有できない物が大半で、それをやる時は、別々の場所で別々の時にやる事が多い。
よくよく考えれば、休みの日にこうやってこの家を訪ねる必要などこれっぽっちもないのだ。
翔くんは何も言わずに、僕を受け入れてくれているけれど、もしかしたら邪魔だと思っているかもしれない。
なんとなく申し訳ない気分になって、ごめんね、と呟いた。
「…なにあやまってんのさ?」
「いや、なんか押しかけて」
翔くんはそう言った僕に、座っているイスのキャスターをころころと転がしながら、近づいてくる。
「そんなの今さらでしょ?」
「でも、なんかやっぱ邪魔じゃん」
そう言ったら、おでこにバシッとでこピンをされた。
結構痛くて、困った顔でおでこを抑えたら。
「あのね、邪魔だったら家、入れてないよ」
大体、俺はこの時間が居心地が良くて好きなんだから。
そう続けて言われて、胸の奥がぽかぽかした気持ちになった。
「翔くん、大好き」
突き上げてくる想いを何気なく告げると、翔くんは一瞬だけ止まって、ありがとうと呟いた。
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