08:秘密




最近、ふいに何かを隠されている気がする。
別に個々の人間だから、それはそれで全然かまわないのだけれど、落ち込んだような表情を見せられると辛い。
やっぱり年下の俺じゃ頼りにならないのか、そんな沈んだ顔をしていても、相談なんて1度もされた事がない。
それが悔しくて、やるせなかった。

大きくなりたい、と願ったのは自分のためでありそして智さんのためだった。
守られるような存在から守ってあげられるような存在になりたくて。
だから高校に入って、初めて身長を抜かした時は、興奮して眠れなくなったくらいだった。
だけれどすぐ気が付いた。
身体が大きくなったからと言って、守れるような存在になるのなんて、とうてい無理だってことに。
意外な話だけれど、あんなにぼんやりと生きているように見えてあの人は、案外しっかりしている。



「翔くん、これやって」

手渡される資料に、ぼんやりと別のことを考えていた頭を引き戻した。
慌ててそれを裕貴くんの手から受け取ると、ぱらりとそれをめくる。

「…てか、これ、裕貴くんの仕事じゃん」

俺のやるべき範疇じゃねぇよ、とつきかえそうとすると首を横に振られた。

「もーお前がやっておいたほうが良いだろ、次期会長」

ああ、そうか、すっかり忘れていた。
前期で裕貴くんは会長の職を下りる、3年生の部活の引退の時期にあわせて。
その後、引き継ぐのは前年度の副会長、つまり俺になるわけだけれど。

「…そっかー裕貴くん、もうすぐ終わりだもんなぁ」
「寂しい?」
「そりゃ、ね」
「でも俺のことよりも、大野がいなくなることのがもっと寂しいだろ?」
「んーでも、家、隣だしなぁ」

と余裕のある発言をしているけれど、本当は少し焦っている。
確か、前に進路の話になったときに美術系の大学に行きたいと智さんは言っていた。
本当は、少しだけ追いかけて同じ所へ行きたいと思っていた俺にとってそれは衝撃の一言で。
芸術なんてものに才能をひとかけらも持ち合わせてない俺にとっては、諦めるしかない夢となった。
ずっと一緒にいたい、と思っているのは自分だけなのだろうななんて自虐的なことを思う。
多分、そういうことじゃないってわかっているのに。
思わず、はぁとため息を吐きそうになって、裕貴くんがいるのを思い出して慌てて止める。
ふと裕貴くんの顔を見上げると、何か難しい顔をしていた。

「どうかした?」
「え…あ、うん」

珍しく、裕貴くんにしては歯切れの悪い返事。
不思議に思って、なに?と口に出すと。

「お前さ、大野の、進路、なんか聞いてる?」
「進路?…だいぶ前に美大行くって言ってたけど?」
「あー…ん、そっか、ならいいんだ」
「なに?」
「いや、どこ行くのかなって思っただけだよ」

やっぱ美大なんだ、とポツリと呟いて。

「…一体何なのさ?」

と尋ねたら、なんでもないよ、と頭をくしゃりと子供のように撫でられた。
子ども扱いすんなよ、と言ったら悪いと笑われて。

「ほら、仕事しよう」

そう言われて、それ以上なにも聞けなかった。




next