aporia
何食わぬ顔で時は過ぎていく。
大野が櫻井にキスしてからもう、3ヶ月ほど経過していた。
最初の頃は謝られても気まずかった櫻井も、変わらず普通の態度の大野に押されるように何もなかったように過ごし出して。
そうしてそれがいつの間にか普通になるには、そう時間はかからなかった。
まるで何事もなかったみたいに、2人は元の関係に戻っていた。
…つもりだった。
「おはようございまーす」
久しぶりの5人一緒の仕事で櫻井、少しだけテンションがあがっていた。
一人の仕事もいつもと違う緊張感があって好きだけれど、やはり皆と一緒な方が楽しい。
そんなことを考えながら開けた扉の先には、誰の気配もなかった。
なんとなく肩透かしを食らったような気分になって、少しだけ盛り上がっていたテンションが下がる。
荷物と羽織ってきた厚めのカーディガンを机に置き、近場にある椅子を引き寄せて座った。
座ってみたもののたいしてすることもない櫻井は、カバンの中からいつも持ってきているMDプレイヤーごそごそと探る。
しかしどこをどう探してもない。
記憶を巡らせて自分の部屋の机の上に行き当たって、そういえば今朝荷物整理をした時に、入れるのを忘れてしまっていた。
しまったなぁと頭をかいて、自分のカバンを若干八つ当たり気味に閉じる。
仕方なしに今度はポケットから携帯を取り出して、二つ折りにされたそれを開いた。
が、これもまた充電池が1つしかなく、自分の失態に舌打ちする。
なんだろう?今日はなんだかあまりついていない感じがした。
それを振り切るように櫻井はもう一度カバンに手を伸ばし、財布を取り出す。
喉の渇きを潤すものでも、と自販機へと向かった。
自動販売機で缶コーヒーを買って、楽屋へと戻る。
嵐様、と書かれた扉に近づくと、行く時にきっちりと閉めたはずの扉が少し開いているのが見えた。
誰かが来たのだろうか?そう思いながら、扉の前に立つ。
開いた扉の隙間から大野が見えた。
ああ、なんだ、大野くんが来てたんだ。
櫻井は、大野の姿を確認するとノブに手をかけて扉を押しかけた、が、動きを止める。
大野が自分の荷物に手を伸ばしているのが目に入ったからだ。
何をしているのだろう?と櫻井はそっと扉の隙間を、広げた。
目に入ったのは、櫻井のカーディガンを、愛しそうに、抱きしめる大野の姿。
ドクンと、身体が揺れた。
大野は櫻井のカーディガンを、この世のすべてみたいに、抱えて、目を瞑って。
そして胸いっぱいに何かを吸い込むみたいに、息を吸って、さらに回した腕に力を込めた。
なんてやさしくて、そして切ない表情。
そうそれはまるで、大野が櫻井に。
ねぇ、大野くん、どうしてそんなことをするの?
櫻井の胸が締め付けられるように、疼く。
そして櫻井は大野のあんな表情を見たのが、これが初めてではないことに気付いていた。
そう、あれは。
大野が、櫻井に、キスをした瞬間だ。
ずっと、ずっと、あの日から、聞きたくて聞けない問いかけが、櫻井の中に蘇る。
それを知ることが、自分にとって決して良いことではないとわかっていたから、気付かないフリをして。
けれど、それは確信へと近づいていた。
ねぇ、大野くん。
もしかして、俺のこと、好きなんじゃねぇの?
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