aporia





櫻井の様子が変だ、そう気付いたのは彼が楽屋に入ってきてすぐのことだった。
自分より先に来ていたはずの櫻井が、荷物を置いたままどこかへ行っていて、戻ってきたのは他のメンバーが来てからで。
おはようと周りのメンバーに声をかけ、最後に大野を見て目線をそらした。

そのときは気のせいかと思った。
だから、たいして気にも留めなかった大野だったけれど。
それは撮影時にもことごとく感じ取り、自分が何かをしてしまったことに気がついた。

また俺、なんかやっちゃったのかなぁ?

大野はため息をついた。
出来るだけ、何もしないように過ごしてきたはずだ、特に櫻井に関しては。




3ヶ月前のある日、大野は櫻井にキスをした。
それに関してはまさか、男にキスをする自分にお目にかかることになるなんて思ってもみなかったので自分でも驚いて。
だけれどそれで気がついてしまった。
自分の思いが櫻井へと向いていることに。
端的に言ってしまえば、恋をしているのだ、大野は櫻井に。

そう気付いたその日から、大野はなるべく櫻井に対していつもどおりの態度をとった。
決してそれを表には出すことはせず、あの出来事もなかったことのように、振舞い続けた。
でなければ、櫻井に悪いと思ったのだ。
あのときの櫻井の顔は、つらく苦しんでいる顔よりは確かにはるかにはましだったけれど、決して喜んでいる顔ではなく。
だから、この気持ちは閉じ込めてしまおうと思ったのだ。
けれど大野にとっては、今はまだ切ることは出来ない大切な気持ちだったから、ひっそりとそれを温めることにした。
誰に言うでもなく、ただひっそりと、自分の胸のうちだけで。
それくらいは罰は当たらないはずだと、思ったのだ。

だからひた隠しにしてきていた。
誰にも、特に櫻井本人には決してバレないように、何もしないようにすごしてきたのだ。
それなのに、今日の櫻井の態度は。

まるで、大野の気持ちを知っているかのようだった。

困ったなぁ、バレたとしたのならどこでバレてしまったのだろうか。
こっそりと見ていたのがバレたのか、それとも時折、掠め取るみたいに櫻井のものを触っていたのがバレたのか。
どちらにしろ、やられた方には気持ちのいいものではないだろうと思う。
しかし謝ろうにも本当にばれているのかわからないし、櫻井が今自分を避けている原因がそれではなかったら。
ただ自分で墓穴を掘ることになってしまうだけだ。

困ったなぁ。

大野は、また、ため息をついた。
出来たら、影でこっそりと想うことだけはやめたくはなかったのに。
櫻井が好きだという気持ちをもし、櫻井自身に否定されてしまったら。
どうしたらいいのだろう?


ただ、好きでいたいだけなのに。


それ以上は何も願っていないのだと伝えて、櫻井は納得してくれるだろうか。


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