指先が、震える。




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「おはようございまーす」

桜井は軽い口調で楽屋の扉を開けると、壁際にもたれかかっている何かが目に入った。
なんだろう?と不審に目を向けるとそれは自分のグループのリーダーの姿。
思わずそれにふっと小さな笑みがこぼれた。
また寝てんのかよ…桜井は心でそうごちるとそっと傍に近寄った。
楽屋を見渡すとその寝ている姿以外の人物はまだ誰も来ていない様子だった。
大方、誰も来ない時間をもてあまして、こうなってしまったのだろう。
桜井はそっと横にしゃがみこむ。

なんか、眠り姫みたいだな。
寝顔を眺めながらそんなことを思う。
無邪気に閉じられた目から長く伸びるまつげ、今更ながらにとても整った顔をしているんだ、と思った。
なんとなしにその頬へと手を伸ばしてしまう。

あ、柔らけー…。
ふにふにと二度ほどその頬を緩くつまんだ。起きる気配はない。
それに調子に乗った桜井はくすくすと笑いながら顔中を触っていた。

あっ。

しかし、ふっとそんなことをしていたら指が唇に触れてしまった。
何故か顔に熱が集まる気がして慌てて、その指をそこから離した。
指先がピリピリとしびれるような感覚に桜井は首をかしげる。
なんとなくそれが何故だかわからないけれど気になって、もう一度、今度は故意に指先を唇へとあてた。
また、指先が震える。

あ、なんか、やばい。キス…したいかも。

桜井は無意識の内に、顔を大野の寝顔に近づけていた。
あと1センチ。
唇がくっつく直前。

ピルルルルルルル。

手元の携帯が大きな音を立てた。
桜井ははっと我に返ると、慌ててポケットから携帯を取り出すとその音を消す。
慌てて大野の顔を見るが、起きた気配はない。
ホッと胸を撫で下ろした。

…てか、オレ、今、何を…!?

我に返ると、自分の今までの行動が恐ろしいものだったことに気が付く。

おいおいおい、男相手に、オレ、何を…!

冷や汗が背中を伝った気がした。
桜井はどくどくと震える胸を押さえながら、ちらりと大野の顔に視線をやる。

………気の迷いだ。うん。

そうして、胸の奥に感じる何かを押し込めた。


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