本気でキスしたい、なんて。




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「翔くん?」

後ろから肩を叩かれて、ドキリと胸がはねる。
その声に振り返る前に、意識的に体勢を整えて、軽く1度深呼吸をした。
いつも聞いているはずの声だというのに、こんなに緊張する思いで聞くのは初めてだった。
原因はわかっている、数日前の自分の奇怪な行動のせいだ。
桜井は頭を抱えたくなるようなそんな気持ちで、足をくるりと動かすと、声の主とやっと顔を合わせた。

「何?さとっさん?」

冷静を装って出した声だったけれど、思ったよりも上手く出ず、少しだけ語尾がひっくりかえったみたいになった。
だけれどそんなちょっとの異変には大野は気付かなかったのか、何事もなかったように自分の用件を話しだす。
どうやら仕事の話だったようで、桜井はそれを聞きながら、ただひたすらに自分の気を落ち着けることでいっぱいになっていた。
なんだというのだろう、この間からずっとそうだ。
桜井は大野と話している自分が、平静でないことにもうずっと悩まされていた。
意識して普通にしようとすればするほど、それはもう普通ではなく。
少し前まで当たり前のようにしていた、こんな何気ない会話すら、力を入れないと聞けやしない。
必死の思いで話を聞き終わると桜井はほっと胸を撫で下ろした。
そんな桜井の様子を見た大野が、口を開く。

「…翔くん、何か最近変じゃない?」

ドキリとまた1つ胸がはねる。

「そんなこと、ないよ」

その質問に、必死の思いで曖昧に笑って、なんでもない風を装う。

「なんかあったんだったら、遠慮なく言ってね?」

大野は少し考えた後にそう言って、桜井の肩を軽くぽんぽんと叩くと、去って行った。


遠慮なく言ってね、とその大野の言葉に思う。
何かあったのかわかっているのなら、この状態を解決する事が出来るなら、相談したい気もする。
だけれど桜井にも、今、どうして自分が変なのかまったくわからないのだ。
どうして、あんなことをしてしまったのか、想像もつかないのだ。

女の子みたいな、でもやっぱり男の顔で寝ていたその姿に、かわいいと思うのは別に言うほど変じゃないと思う。
多分、あの場にいたら、相葉だって二宮だって松本だってそう思うに違いない。
だけれど、彼らは思うだろうか。

冗談でもなんでもなく、本気でキスしたい、だなんて。

答えの出ない問いかけは、桜井にとって大学の授業よりもはるかに難しかった。


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