これは恋じゃない、恋ではないと思うのに。
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自動販売機のコーヒーのボタンを、押す。
ガタンと音を立てて受け取り口に落ちてきた缶を拾うと、その横にあるベンチに静かに腰を下ろした。
桜井は、さきほどの相葉との話を無理矢理終らせて、楽屋を出てきていた。
呼び止める相葉の声を気付かない振りして無視して。
恋してるみたいだ。
相葉のその言葉だけを持って、一人になった。
そんなことあるはずないと、自分でも思っているのに、どこか胸がもやもやしている。
今まで誰かを好きになった事がないわけじゃない、もちろん付き合ったこともある。
だけれどそれは全部、女の子相手に感じた感情ばかりだった。
男でも気の合う奴はたくさんいて、好きだと思ったことも感じたこともあるけれど、でもそれは決してキスしたいと思う感情ではなかった。
だから戸惑っているのだ。
桜井は、缶コーヒーを開けないまま握り、もう何度目になるかわからないため息を吐き出した。
その時、前方から今一番会いたくない人物、大野が、こちらへ向かってくるのが見えて、桜井はそっと立ち上がり物陰へと隠れた。
桜井が隠れたと同じ時くらいに、大野の後ろからもう一人、二宮が大野を追いかけるようにしてこちらへとやってくるのが見える。
二宮は大野に追いつくと、肩を組むようにして隣に並んだ。
そしてそのまま何かを話し、楽しそうな笑顔で笑うふたり、とても親しげに。
ズキリと胸が痛んだ。
そう言えば最近、自分のせいではあるけれど、最近まともに大野と話していない。
だから当然、あんな笑顔を自分に向けてくれることなんて、全然なかった。
そう思うと、胸が苦しくて、嫌な気持ちになる。
二宮が、羨ましかった。
これは、嫉妬だ。
桜井にははっきりとこの感情がわかった。
自分は今、二宮に嫉妬しているのだ。
大野と楽しそうに、肩を組んで、話して、笑顔を向けられている二宮に。
桜井がしばらくじっとその場で隠れていると、二人は笑いながらどこか別の場所へと消えて行く。
それを見た桜井は、その場へと座り込んだ。
そして頭を抱え込む。
やっとわかった、これは恋だと。
自覚してしまえば、呆気ないものだった。
本当はキスをしたいと思った時点でわかっていた、ただ認められなかっただけだった。
まさかそんなはずはないと。
だけれどもう引き返せない、だってわかってしまった。
自分は大野が好きなのだ。
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